研究実績の概要 |
慢性膵炎は、膵臓に持続的な炎症が起こり、線維化により組織が破壊され機能喪失をもたらす。膵臓組織の破壊は、痛み、糖尿病および食物の吸収不良などの症状を引き起こす。慢性膵炎の成因は、急性膵炎が基軸となり(SAPE仮説)、その発作をくり返すことで形づくられるというMechanistic Definitionが主流である。急性膵炎の発作は激しく、病院へは多くの患者が救急車で来院する。それは患者にとって忘れることのできないイベントである。しかし日常臨床において、実際にはその激しい急性膵炎の発作を経験したことのない、慢性膵炎患者にしばしば遭遇する。私は、いわゆるこの「気がついたら慢性膵炎」(Silent chronic pancreatitis:Silent CP)という一群が、慢性膵炎患者の約50%にもおよぶことをpopulation-based studyの裏付けをもって、世界で初めて報告した(Hori Y, Vege SS, Chari ST et al. 2019)。 慢性膵炎に至る過程は、アルコールや喫煙などの外的要因が加わる場合が多いとされるが、それだけでは説明できない。急性膵炎発作の有無や重症化の程度などの臨床経過の個体差は大きく、何らかの遺伝的要因が背景に存在する可能性がある。当院および共同研究施設において急性膵炎と診断された患者を対象とし血液検体由来のゲノムDNAを用いて、日本人に最適化された約66万SNPの解析が可能なマイクロアレイを用いて網羅的にSNPタイピングデータを得た後、Case-control studyを行うことにより候補SNPを得ることを目的とし、2023年4月現在、150例の膵炎患者の血液検体採取を終えている。
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