本研究では,びまん性胃がんオルガノイドを免疫不全マウスの胃へ同所移植することにより,腫瘍浸潤モデルを作成し,腫瘍浸潤細胞の機能性と動態について明らかにすることを目的とした. 前年度は浸潤モデルのシングルセルRNA-seq解析から,腫瘍浸潤に寄与している細胞の遺伝子マーカーを同定した.複数の患者由来サンプルを統合解析し,同様の浸潤細胞集団が存在することを確認した. 移植組織および患者検体にて,遺伝子マーカーの免疫染色から,浸潤先端部やtumor buddingにおいて,発現が上昇していることが見出された. さらに本年度はこのマーカー遺伝子を用いて,細胞の蛍光可視化および遺伝学的系譜解析を行った.蛍光可視化した細胞をマウスの胃壁に移植した後,胃を腹壁まで挙上して生体窓デバイスを取り付け,長波長多光子顕微鏡を用いて移植細胞の動態を経時的に観察した.すると移植直後はびまん性に分布していた蛍光細胞が,移植後1週間で浸潤先端部に集積するダイナミクスが確認された. またマーカー遺伝子を蛍光可視化したオルガノイドを利用し,in vitroで浸潤関連マーカーの発現が上昇する条件を同定した.コラーゲンと線維芽細胞を使用した二次元培養アッセイから,浸潤関連マーカーの発現を上昇させる培地にて,in vitro系で浸潤能が上昇することを見出した. 今後はライブイメージング技術を利用し遺伝学的系譜解析を行い,より詳細なダイナミクスと機能について解析していく.
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