研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は肥満やメタボリック症候群を背景に発症し, 脂肪化に加えて炎症, 線維化を伴い, 予後は線維化の進行および肝発癌に規定される. 我々は肝線維化の回復プロセスにおいて, 細胞外マトリックス(ECM)分子であるエラスチンおよびその特異的分解酵素であるMMP12の発現動態の重要性を見出した(Sato T. et al. Matrix biology plus 2023 Vol. 17). しかし, NASHの病態における関与はまだ不明である. 本研究ではエラスチンおよび『エラストカイン』のエラスチン由来ペプチド(EDP)に着目し, NASH病態進展および肝発癌におけるEDPおよびエラスチン受容体複合体(ERC)とその下流シグナルの役割を解明することを目的としている. NASH初期病態モデルとして肥満・インスリン抵抗性を発症するKK-Ayマウスを用い, NASH肝発癌モデルとしてSTAMマウス(ストレプトゾトシン+高脂肪食モデル)の作成を行った.またエラストカイン発現モデル(陽性対照)として四塩化炭素誘導肝線維化モデルを作成した. 現在それぞれのマウスにおける肝脂肪化, 炎症細胞浸潤, 線維化および肝腫瘍形成の進展におけるエラスチン, EDPおよびエラスターゼ活性を測定している. 引き続き同モデルにおいて腫瘍増殖に関与する下流のc-Metシグナルの動的変化を解析しin vitro系での解析に移行していく予定である.
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今後の研究の推進方策 |
In vitro系の検証を行っていく. マウス肝をコラゲナーゼ環流法で細胞を単離し, エラストカイン投与によるEDPとERCの発現を指標としてシングルセル解析を行うことにより, エラストカインが作用する細胞腫を同定する. ターゲットとなる細胞の初代培養の系を作成し, in vitroにおけるエラスチンの作用を細胞腫毎に検証すると共に, エラスチン誘導フェロトーシスの阻害剤Ferrostatin 1を添加してエラスチン関連シグナルにおけるフェロトーシスの役割を明確にする. NASHおよびNASH肝癌患者の血清中EDPを検出し, NASHの進展とEDP発現の関連を証明する. エラスチンを起点とするEDPおよびERCの活性化がNASHの病態形成・肝発癌に及ぼす影響を解明することにより, エラスチン関連シグナル伝達経路をターゲットとしたNASHの抗肝線維化・抗肝発癌療法の確立を目指す.
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