研究課題/領域番号 |
22K16065
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
門脇 裕 東京大学, 医学部附属病院, 特任臨床医 (00915431)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 心不全 / ドキソルビシン / miRNA / エクソソーム |
研究実績の概要 |
アントラサイクリン系薬剤は今なお重要な抗がん剤だが、重篤な心筋症を誘発した場合がん患者の生命予後を著しく悪化させる。アントラサイクリン心筋症の病態機序の全容は解明されておらず確立した治療はない。本研究はがん存在下に、マウスや培養心筋細胞に対するアントラサイクリン系薬剤の心毒性を解析し、がん由来因子が心臓に与える影響を解析し、アントラサイクリン心筋症の病態機序の解明と治療標的分子の同定を目的としている。 当該研究員は、マウス乳がん細胞を皮下移植することにより作成した担がんマウスに対して、ドキソルビシン (アントラサイクリン系薬剤の代表的薬剤) を投与しがんドキソルビシンモデルマウスを樹立した。がんドキソルビシンマウスでは、強い心機能障害および心臓萎縮が認められ、何らかのがん由来因子がアントラサイクリン系薬剤に伴う心毒性を助長している可能性が示唆された。さらにがんドキソルビシンマウスの血清由来エクソソームをドキソルビシンと共添加すると、ラット新生仔心筋細胞に対して著明な心筋細胞障害を誘導した。続いて、がんドキソルビシンマウスの血清由来エクソソームに内包されるmiRNAを抽出した後に、miRNA アレイ法を用いた網羅的発現解析を行い、がん由来因子となり得る候補 miRNA を明らかにした。がん由来 miRNAは、アントラサイクリン系薬剤投与に伴う心毒性を増強することによって、心筋症の表現型の増悪に関わる可能性がある。 がん由来miRNAをアントラサイクリン心筋症の新たな診断・発症予測モダリティー、あるいは治療ターゲットとして応用することによって将来的に診療技術が向上することが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アントラサイクリン心筋症を増悪するがん由来因子の候補として、がん由来miRNAの関与を想定し、担がんドキソルビシンマウスの血清由来エクソソーム内のがん由来因子となり得る候補として抽出した。続いてmiRNAをデータベース解析することによって絞り込みを行い、得られたmiRNAを遺伝子編集による細胞への過剰変化を試みている。ここまでの研究成果を第5回腫瘍循環器学会で発表しBasic Research Awardに選出された。また第26回日本心不全学会学術集会シンポジウム5にて招待講演を行った。これらの成果が、当初の研究計画に即していることから、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
特定のmiRNA発現の変化を行った細胞に対して、ドキソルビシンを負荷した場合に表現型にどのような変化が起こるかを検討し一連のシグナル伝達経路についても検討することで、がん由来因子によるアントラサイクリン心筋症の増悪機構について解明を試みる方針としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生した理由として、①特定のmiRNAを使って表現型のシグナル伝達まで検討するための網羅的解析に至らなかったという点、②Web口演や招待講演での発表につき本研究費より旅費が捻出されなかった点が挙げられる。今後、特定のmiRNAの発現変化を行った細胞に対して、表現型にどのような変化が起こるかを検討し、また一連のシグナル伝達経路についても検討する。この際に用いられる遺伝子編集試薬やシグナルの網羅的解析(プロテオーム解析等)、および学会参加費や論文作成費などが必要となる予定である。
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