研究実績の概要 |
本研究は左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)の病態において細胞老化、特にマクロファージの老化が心臓構成細胞に細胞肥大、繊維化、炎症を惹起するかを探索することを目的としている。 HFpEFマウスモデルの作成に難渋したため、マウスの左冠状動脈前下行枝を永久結紮し心筋梗塞モデルを作成し心筋梗塞後の心筋リモデリングにおける細胞老化の影響を検討した。マウスは野生型とDNA二本鎖切断の修復に関与するタンパクKu80をノックアウトしたKu80+/-を用いた。Ku80欠損マウスではDNA損傷修復の不全により細胞老化が加速している。 Ku80+/-マウスは野生型に比べ心筋梗塞後の予後が悪く、心機能低下を認めた。心筋梗塞後24時間ではKu80+/-マウスは野生型と比較して梗塞面積の有意差を認めなかったが、1ヶ月後では梗塞面積が有意に増加した。各種炎症性サイトカインの発現を時系列(心筋梗塞後6,24,48,72時間)で解析すると、Ku80+/-マウスではIL-10の発現増加の遅延を認めた。IL-10は抗炎症あるいは炎症収束に関与していることから、Ku80+/-マウスではIL-10の発現遅延により、心筋梗塞後の炎症応答に不全をきたしている可能性が示唆された。このマウスの骨髄由来単球をマクロファージに分化させ炎症性(M1)あるいは抗炎症性(M2)マクロファージへの極性化をサイトカインの発現解析により解析したが、Ku80欠損細胞でM1あるいはM2マクロファージの極性化の調節不全は認められなかった。これらの結果からDNA損傷蓄積に誘導される細胞老化は心筋においてIL-10の発現遅延により心筋梗塞後の炎症応答の調節に異常をきたす可能性が示唆された。
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