研究課題/領域番号 |
22K16097
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安達 裕助 東京大学, 医学部附属病院, 特任研究員 (40834198)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 動脈硬化 / 血管周囲組織 / 褐色化 |
研究実績の概要 |
血管傷害は局所的な炎症を誘発し、長期間にわたる炎症は病的な血管リモデリングを引き起こす。血管の創傷治癒において、炎症型マクロファージと抗炎型マクロファージのバランスは非常に重要である。炎症消退の主要なプロセスは、炎症型マクロファージが抗炎症型マクロファージにシフトすることによって達成されるものの、そのメカニズムは十分に解明されていない。研究代表者らは、血管傷害が血管周囲脂肪組織(PVAT)の褐色化を誘発すること、PVATの褐色化を阻害すると傷害後の内膜の肥厚と炎症型マクロファージの集積が増悪すること、逆に褐色化の促進は血管リモデリングと炎症型マクロファージの集積を抑制することを明らかにした。これらの知見から、PVATの褐色化が、血管傷害後の炎症消退に極めて重要な役割を担っていることが示唆された。また、PVATの局所的な褐色化促進により、傷害後の病的な血管リモデリングが抑制されたことから、PVATは傍分泌によって近接する動脈に直接作用し、血管傷害に対する病態生理反応を媒介することが示唆された。そこで研究代表者らは、シングルセルRNA-seqデータ解析の結果から、褐色化したPVAT由来の抗炎症アディポカインとしてNRG4を同定した。NRG4は、ErbB受容体チロシンキナーゼを介して作用するNRGタンパク質ファミリーの一員である。研究代表者らは、Nrg4をノックダウンすることで、褐色化PVATによるマクロファージの抗炎症型への分極作用が消失し、褐色化PVATの血管傷害に対する抗炎症作用がキャンセルされることを確認した。さらに、ヒト病理組織標本を用いて、傷害を受けたヒト大動脈でもPVATの褐色化現象が起きていることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスの血管傷害モデルを用いた分子生物学的手法に加え、システム生物学的手法を用いた解析やヒトサンプルでの解析を行い、PVATが血管炎症とリモデリング制御において果たす役割を検討した。具体的には、血管が傷害を受けるとPVATが褐色化し、この褐色化したPVATが抗炎症因子であるNRG4を分泌し、過剰な炎症を収束に導いていることを解明し、学術雑誌に報告した(Nat Commun. 2022)。
|
今後の研究の推進方策 |
ヒトにおける急性血管傷害モデルである大動脈解離に着目し、大動脈解離時のPVATのストレス応答を非侵襲的に捉え、新規診断手法に応用することを目標として、さらなる研究を進めている。
|