研究課題/領域番号 |
22K16104
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
西森 誠 神戸大学, 医学研究科, 助教 (20871346)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 深層学習 / 人工知能 / 心電図 / 小児心臓検診 |
研究実績の概要 |
当該年度の研究目的および研究実施計画は、小児検診データおよび3次検診受診者の患者情報(年齢・性別・疾患名・心エコーデータ・胸部レントゲンデータ等)を学習用データ・検証用データに分割し、学習用データのみを用いてAIモデル(深層学習モデル)を構築することである。さらに、検証用データを用いて作成したAIモデルの汎化性能の評価を行うことを目指している。 当該年度では、主に小児心臓検診を受診した10万件の心電図データを用いて、深層学習モデルを作成し、評価を行った。モデルは当初予定していたモデルを発展させ、異常検知モデルとして構築した。理由としては、検診ではほとんどのケースで正常であり、異常を認める例はごく少数であるため、ごく少数の異常を検知するためのモデルとして深層学習をベースとした異常検知モデルを構築した。 深層学習を用いた異常検知モデルにより、小学生1年生および中学生1年生を対象とした際に一次検診で異常を指摘された症例を検出する性能評価として、AUC-ROCが0.996、AUC-PRCurveが0.980と非常に高い水準の性能となった。これにより、本研究では、まれな疾患を含む異常疾患を学校検診レベルで分類できるモデルができた。さらに、小児肥大型心筋症という非常にまれな疾患を本研究で構築した異常検知モデルで検証したところ、AUC-ROCは0.98、AUC PR-curveが0.412と比較的高い評価値となった。 この成果を第27回日本小児心電学会学術集会で「学校心電図検診のビッグデータに基づく深層学習による異常検知モデル」というタイトルで学校検診シンポジウムで筆頭演者として発表を行った。これにより、本研究の成果が広く共有され、関連分野の研究者や医療従事者との議論が行われ、今後の研究の進展に役立つことが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の進捗状況は、研究計画に沿って概ね順調に進んでいる。小児検診データを学習用データと検証用データに分割し、学習用データを用いて性能の高いAIモデル(深層学習モデル)を構築することができた。検証用データを用いたモデルの汎化性能の評価も予定通り行われ、有望な成果が得られている。 ただし、研究計画では心エコーデータや胸部レントゲンデータを含むデータセットを用いることが予定されていたが、今回取得したデータセットにはこれらのデータが含まれておらず、協力自治体である吹田市では小児検診でこれらの検査は実施されていないため、本研究では心電図のみを用いて深層学習モデルを構築した。 しかし、実際の検診の心電図判読現場では、心電図の情報のみで判断することが多いため、本研究で構築したモデルの現場での有用性は損なわれていないと考えられる。また、心電図を用いたモデルの構築に成功していることから、今後、さらに別のデータセットを取得できた場合には、心エコーデータや胸部レントゲンデータを用いたモデルの構築も可能であると期待される。 現在までの進捗を踏まえて、今後の研究では、構築した深層学習モデルを用いて、別の集団での有用性を検証するとともに、現場での実際の検診現場での活用を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方針として、次年度は構築済みの小児心電図診断AIモデルをもとにアプリケーション開発を行う。神戸大学医学部附属病院や神戸市の小児心臓検診受診者に対し、別集団での有用性検討のため前向き研究を実施する。アプリケーションは医師の診断入力時にAI診断結果をリアルタイム表示し、ダブルチェックが可能で性能向上も期待できる。 大学や自治体との協力が重要であり、関係者と密な連携を図る。神戸大学医学部附属病院や神戸市との協定やデータ取り扱い、倫理的問題にも対応する。開発者やエンジニアと連携し、実際の検診現場で使いやすいアプリケーション開発が求められる。 小児検診の心電図診断の精度向上や効率化が期待され、健康増進や早期発見に寄与する。検診現場の負担軽減や診断品質向上も期待できる。さらに、他疾患への応用が可能となるため、AIモデルの拡張・改良や研究成果共有、協力体制構築が重要である。 総じて、推進方策はアプリケーション開発、実証実験実施、関係者連携強化、研究成果拡散・応用が主要要素であり、適切な実行と研究目標達成への努力が求められる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では概ね計画通りの使用額となっているが、予定額の一部は購入商品の価格変動により剰余金が発生した。翌年度分として、当該年度の剰余金とあわせて、深層学習モデルの構築のための物品費などに充てる計画としている。
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