研究課題/領域番号 |
22K16107
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
呉 家賢 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 助教 (10908528)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 動脈硬化 / 長鎖ノンコーディングRNA |
研究実績の概要 |
本研究では、新たに発見した長鎖ノンコーディングRNA(LncX)の発現抑制による内皮健常性の維持効果を、生体外の実験にて確認した。しかし、生体内での保護効果や分子的なメカニズムについてはまだ解明されていなかった。 そこで今回、CRISPR-Cas9技術を用いてLncXノックアウトマウス(LncX-KO)を作製し、動脈硬化モデルであるApoE欠損マウス(ApoE-KO)と交配して、ApoE欠損マウス背景下のLncXヘテロ欠損マウス(ApoE-KO/LncX-HE)を作製した。 LncXヘテロ欠損マウスにおいて、高脂肪食の負荷下で大動脈全体に形成される脂肪プラークの面積が、コントロールマウス(ApoE-KO/LncX-WT)と比べて減少する傾向が確認された。また、培養内皮細胞を用いて、LncXノックダウンによる遺伝子発現変化を解析した。その結果、DNA複製や細胞分裂に関わる遺伝子群の発現量が減少し、一方でエンドサイトーシスや細胞間接着に関わる遺伝子の発現量が上昇することが明らかになった。さらに、フローサイトメトリーを用いて、LncXノックダウンによる細胞周期の休止も確認した。 これらの成果から、LncXによる細胞周期制御を介した新たな動脈硬化抑制メカニズムが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目標の一つである「動脈硬化マウスモデルにおけるLncX欠損による血管保護効果の評価」において、ApoE及びLncXダブルノックアウトマウスの作製に成功し、高脂肪食を与えることで動脈硬化発症させることができた。また、2年目の目標である「LncX欠損による動脈保護効果の確認」についても、LncXヘテロ欠損マウスを用いた初歩的な結果を確認することができた。 一方、もう一つの目標である「LncXにおける内皮機能を影響するメカニズムの解明」について、内皮細胞の全トランスクリプトームを解析し、遺伝子オントロジーおよびGene Set Enrichment Analysis (GSEA)を用いて、初めてLncXノックダウンによる細胞周期S期の進行に関わる遺伝子群の発現低下を見出した。さらに、フローサイトメトリー解析により、LncXノックダウンによるS、G2/M細胞周期にいる細胞の比率が顕著に低下していることも確認できた。 正常成人の血管内皮細胞においては、細胞増殖の休止が重要視されており、これは血管の健康を維持するために必要不可欠な要素の一つである。一方、病的因子の刺激は内皮細胞増殖を促進させ、血管疾患を引き起こすことがよく知られている。しかし、LncXの関与についてはこれまで報告がない。本研究では、LncXノックダウンが細胞周期休止を維持することを明らかにした。 これまでの結果から、2022年度の研究目標については、概ね達成することができたと考え、今後は、より詳細な解析を進めることで、LncXの機能解明につながる成果を期待している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、LncX欠損による動脈保護効果を継続してダブルノックアウトマウスを用いた検討を行う。また、動脈硬化巣におけるマクロファージの浸潤程度を評価するため、大動脈全体の脂肪染色に加えて、免疫染色も行う。同時に、floxによる内皮特異的にLncXノックアウトマウスの作製も進める。さらに、動脈硬化が発生しやすい領域(atherosclerosis-prone region)では、内皮細胞の周期再開に関与することから、それらの領域のLncX発現量を調べ、LncXと細胞休止の相関性を生体内で調査する。また、LncXが介在するメカニズムについては、LncXノックダウンによる発現変化が共通する転写因子を調べ、特定転写因子の関与について評価を行う。具体的には、発現量やレポーターアッセイを用いて、LncXノックダウンによる変化を評価する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
RNA-seq解析のため電子計算機の購入を計上していたが、既存の電子計算機を用いることができたため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額はfloxマウスの作成と転写因子レポーターアッセイの試薬購入のため、物品費として計上する。
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