本研究では、新たに発見した長鎖ノンコーディングRNA(LncX)の発現抑制による内皮健常性の維持効果を、生体外の実験にて確認した。しかし、生体内での保護効果や分子的なメカニズムについてはまだ解明されていなかった。本研究はそのメカニズムを解明するとともに、LncXノックアウトマウスを作製し、生体における動脈硬化進展の影響について研究した。 実験方法として、まずはin vivoにおけるLncX欠損による動脈硬化進展抑制を評価するため、CRISPR-Cas9を用いた全身性LncX欠損マウスを作製した。さらに、ApoEノックアウトマウスと交配させ、ダブルノックアウトマウスを作製し、高脂肪食を与えることで動脈硬化を発症させ、大動脈全体をOil Red O 染色(脂肪染色)を行い動脈硬化の程度を評価した。その結果、LncXヘテロ欠損マウスにおいて、高脂肪食の負荷下で大動脈全体に形成される脂肪プラークの面積が、コントロールマウス(ApoE-KO/LncX-WT)と比べて減少することが確認された。 さらに、網羅的遺伝子解析(RNA-seq)を用いて分析した結果、LncXノックダウンによるDNA複製や細胞分裂に関与する遺伝子群の発現量が減少し、一方でエンドサイトーシスや細胞間接着に関与する遺伝子の発現量が上昇することが明らかになった。さらに、フローサイトメトリーを用いて、LncXノックダウンによる細胞周期の休止も確認した。細胞間接着は血管内皮細胞が血管バリアとして機能するために重要な役割を果たし、バリア機能の損傷は動脈硬化の発症を促進することがよく知られている。一方、健常な血管内皮細胞は休眠状態を維持することが報告され、動脈硬化好発区域での内皮細胞の細胞周期再開は内皮機能喪失の特徴とされる。これらの成果から、LncXによる細胞周期制御を介した新たな動脈硬化抑制メカニズムが示唆された。
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