肺動脈性肺高血圧症と遺伝性出血性末梢血管拡張症は、それぞれ難治性の肺高血圧および動静脈奇形・末梢血管拡張といった血管形成・機能異常を特徴とする疾患である。どちらもALK1シグナル異常が原因として知られているが、その詳細なメカニズムは不明な点が多い。ALK1シグナルの下流伝達系は多様であり、遺伝子の網羅的解析からはプロスタグランジン産生経路の変動も示唆されているが、ALK1シグナルによる直接的な調調節機構が存在するのか、血管機能とどのように関連しているかは不明である。本研究では、プロスタグランジン産生経路をはじめとして、ALK1シグナルの多様な下流伝達系に着目し、ALK1シグナル刺激・阻害による遺伝子発現・タンパク質発現解析、転写調節メカニズム解析、および血管機能解析により、ALK1下流シグナル伝達系の血管機能に対する役割を明らかにすることを目的とする。 今年度は、培養内皮細胞に対しBMP9を処理し、プロスタグランジン産生経路の遺伝子発現を定量PCR解析により検討した。その結果、遺伝子発現がBMP9刺激により増加することを見出した。また、転写阻害剤の前処理や、SMAD4のsiRNAノックダウンにより遺伝子発現が減少することが明らかとなった。培養内皮細胞に関する公的データベースを用いたin silico解析を行なったところ、プロスタグランジン産生経路の遺伝子近傍においてSMAD転写因子結合による転写活性化を担うエンハンサー候補領域を同定した。以上から、ALK1シグナルの直接の下流因子であると示唆された。
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