研究課題/領域番号 |
22K16128
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
家城 博隆 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 訪問研究員 (30932834)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 虚血性心疾患 / ゲノム医療 / 遺伝的リスクスコア |
研究実績の概要 |
心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患は全世界の死因の第一位であり、遺伝的要因と生活習慣などによる環境要因が複雑に絡み合って発症に至る。虚血性心疾患の遺伝的背景明らかにするために申請者はこれまでにゲノムワイド関連解析(GWAS)が行われてきたが、GWASでは統計学的検出力などが原因でレアバリアント(頻度の低い多型・変異)を十分に解析することができなかった。またGWASの統計値から算出される遺伝的リスクスコア(PRS)の性能も十分でなかった。そのため本研究では虚血性心疾患の発症におけるレアバリアントの役割を明らかにするために、新たな人工知能を用いたモデルを用いて解析し新たな遺伝的リスクスコアを作成することを目的とした。 心筋梗塞患者と非心筋梗塞患者の約6000人の全ゲノムシークエンスに対して人工知能を用いたモデルを訓練することで虚血性心疾患に関連する59個の遺伝子群を同定した。この遺伝子群の機能を調べるために、遺伝子の注釈付け(アノテーション)およびクラスタリングを用いた手法によりこれらの遺伝子を8個のクラスターに分類した。人およびマウスの表現型に関連している遺伝子が多く得られた。またSTRINGのデータベースを用いてタンパク質の相互作用ネットワークにこれらの遺伝子を当てはめることにより46個の疾患に関連する機能モジュールを得た。これらのモジュールの機能を推定することにより脂質や免疫、血管形成などが虚血性疾患に関連していることが示唆された。また人工知能モデルからレアバリアントを用いた遺伝的リスクスコアを作成し独立したデータで性能を検証し有意に疾患予測が可能であることを確認した。レアバリアントを用いた遺伝的リスクスコアは脂質や凝固機能などのいくつかの臨床パラメータと相関していた。引き続き遺伝子の機能推定や遺伝的リスクスコアの検証を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに人工知能を用いたモデルを用いて約6000人の全ゲノムシークエンスのデータの解析を行い、交差検証方法を用いてモデルのパラメータチューニングを行うことで約59の遺伝子を同定した。この59の遺伝子の機能を探索するために、Human Phenotype OntologyやGene Ongotologyのデータを用いた遺伝子セットエンリッチメント解析を行うことで機能を推定した。またこれに加えて過去のGWASやエンハンサー情報などのデータベースを参照して注釈付け(アノテーション)を行ってこれをもとにクラスタリング解析を行うことで遺伝子群のクラスター分類まで行った。さらにタンパク質間相互作用(PPI)ネットワークデータに対して遺伝子群を当てはめることにより遺伝子群の機能モジュールを推定した。 このように同定した遺伝子群について様々なデータベースや機械学習手法を用いて機能推定を行い、またPPIやエンハンサー情報などのオミックス情報を組み合わせることにより疾患パスウェイの推定を行うことができているという点で順調に進行している。 また人工知能モデルを用いた遺伝的リスクスコアについても臨床パラメータや夜ごとの関連についての検証が進んでおり順調に進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた結果の他人種での再現性を確認するためにUKバイオバンクのデータ解析を進める。エクソームシークエンスデータを用いた解析では日本人のデータでの結果とやや異なっていた。新たに公開されたUKバイオバンクの全ゲノムシークエンス情報を参照し再現性について改めて検討する。また得られた遺伝子群の機能解析やパスウェイ解析を更に進めることにより虚血性心疾患の発症機序を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果をさらにまとめてから学会発表や論文投稿をすることとしたため、旅費やその他費用、物品費などを年度内に使用しなかったため、これらの費用は次年度以降に使用する。
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