研究実績の概要 |
血管石灰化は慢性腎不全の主要な合併症である. リン酸は石灰化基質の材料となるだけでなく, 血管平滑筋細胞の形質転換を促し, 血管中膜の石灰化を進行させる. 既存の治療は血中リン濃度管理を軸としており, 複数のリン吸収阻害剤が開発されてきたが, 明確な効果の認められたものはない. 申請者は血管平滑筋細胞において転写因子TFEBが慢性腎不全および高リン酸環境下で減少することを発見した. TFEBは細胞内消化器官であるライソゾームの合成促進因子である. 申請者は, TFEBの減少がライソゾーム障害の進行を介して血管石灰化を増悪させること, TFEBの減少はユビキチン‐プロテアソーム系による分解によるものであることを報告した. 本研究では, TFEBが高リン酸血症下で分解に至る分子機序を詳細に検討する. また, TFEBの減少を標的とした血管石灰化の治療が可能か, ラット慢性腎不全モデルを対象に検討し, 血管石灰化の潜在的な内科的治療法の開発を目指す. 初年度は, TFEBの過大発現の効果およびTFEBのユビキチン認識部位の同定を目標として実験を実施した. TFEBを過大発現させるアデノ随伴ウイルス(AAV)を調整し, ラット大動脈平滑筋細胞に対するAAV感染実験を行ったところ, mRNA発現で約4倍の過大発現を認めたものの, タンパク質レベルでの増加は観られなかった. プロテアソーム阻害剤のMG-132の添加によりタンパク質レベルで過大発現したため, 血管平滑筋細胞では, 生理的条件でTFEBの過大発現を防ぐ機構が存在することが示唆された. また, TFEBのリジン残基の一塩基変異体の過大発現実験の結果から, TFEBのユビキチン認識部位は複数存在し, かつbHLHおよびleucin zipperドメインの近傍に存在する可能性が高いことが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血管平滑筋細胞におけるTFEB過大発現が血管石灰化を抑制するデータがin vitroで得られた場合,ラットにおける in vivo 実験を遂行する予定であったが, in vitro のデータは, 生理的条件下であっても, TFEBの過大発現がタンパク質レベルで抑制されることを示唆している. 野生型TFEBの過大発現ではなく, 分解耐性のあるTFEBの過大発現が血管石灰化に対して奏功する可能性があり, 本研究の主な課題が申請書の記載のアプローチ2(TFEBのユビキチン化部位の同定)に移行している.既にTFEBのユビキチン化部位である可能性の高い部位を複数同定しており, 次年度中の同定が見込まれる.
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今後の研究の推進方策 |
ユビキチン化部位である可能性の高いリジン残基を全てアルギニンに変換したTFEB変異体を発現させるAAVを調整して(プラスミド作成済み), ラット大動脈平滑筋細胞を対象に過大発現がみられた場合は, 一残基ずつ野生型に戻す実験を行い, 分解耐性を得るのに必要十分なリジン→アルギニン変異を同定する. また変異体を過大発現させることによって慢性腎不全, あるいは高リン酸刺激下におけるTFEBの分解抑制および血管石灰化の抑制効果が得られるのか検討を行っていく.
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