研究課題
本研究は、間質性肺炎合併肺癌(UIP-LADC)に高頻度に認めるゲノム異常の同定と腫瘍促進的な微小環境の本態の解明を目指したものである。先行研究から得られた知見であるNKX2-1含む肺サーファクタント関連遺伝子群の発現量低下を及ぼす遺伝子異常を全ゲノム解析により染色体構造異常(SV)のレベルも含めて解析を目指している。当該年度は当院および共同研究者が有する肺腺癌の全ゲノムシークエンス(WGS)データの統合を行った。UIP-LADCとUIP非合併喫煙者LADCのゲノム異常を比較すると、喫煙者よりも優位に変異数(SNV、INDEL)が少なかった(p<0.0001)。また、UIP-LADCに特徴的な遺伝子変異としてNKX2-1領域の変異を有する症例がUIP-LADCの31%にのぼる一方で、通常型肺腺癌で認められるようなEGFRなどのドライバー遺伝子異常の症例は認めなかった。また、UIP-LADCの中にはNKX2-1領域に大規模な染色体構造異常(SV)を有する症例も確認した。RNAシークエンスも実施して、それらのゲノム異常がある症例ではNKX2-1のmRNA発現が低下していることを確認し、またタンパクレベルでも免疫染色を実施して失活の有無を確認した。RNAシークエンスによるmRNA発現データから免疫細胞の分布を推定するソフトウェアであるCibersort(Nat Med. 2015)による解析結果からは、NKX2-1の変異の有無によりCD8陽性T細胞に差異を認めた。UIP-LADCではNXX2-1領域の様々なゲノム異常が確認された。それらを取り巻く腫瘍微小環境では免疫監視を担うCD8陽性T細胞の分布がゲノム異常の有無により差があることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
症例数の増多が可能であったこと、腫瘍微小環境についても解析が進み、進捗はおおむね順調である。
WGSによるデータの取得を継続し、共同研究者が有する通常型肺腺癌のWGSの比較を通じてUIP-LADCのゲノムの特徴の抽出を続ける。また、RNAシークエンスから得られた大局的な腫瘍微小環境の推定値については、病理学的にも確認をする予定であり、現在は手術検体の薄切、免疫染色について準備中であり、今後は結果が得られ次第、統合解析を進める予定である。
当該年度の研究は、事前に取得したデータの解析を中心に行ったため、予想より経費使用が少なかったが、詳細な病理学的検討を次年度に開始する方針としたため繰り越しして、解析の消耗品等の購入にあてることにした。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
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