呼吸器を初めとした高度に組織化された臓器は、多くの移植を必要としている患者が長期間の待機を余儀なくされているにも関わらず、人為的な作成が困難な状況にある。発生学のこれまでの歴史から、各臓器形成において重要な因子やシグナル経路は明らかとなってきた。しかし、立体化や巨大化に必須である力学的メカニズムや細胞の的確な配置制御メカニズムの多くは未解明のままである。そこで本研究では、これまでの遺伝学的解析ではなく、細胞工学技術を活かして生体に近い輪状軟骨パターンをもった移植可能な気管組織の創出を目指す。その第一歩として、令和4年度では、発生期の気管組織を模したPDMSデバイスの形状検討および、マウスES細胞を用いた分化誘導法の改善検討を行った。その結果、ある形状のPDMSデバイスを用いたマウスES細胞分化誘導法にて、世界で初めて細長い形状の人工軟骨組織を2次元培養下において形成することに成功した。しかし、得られた細長い形状の人工軟骨組織は成熟度合が十分ではないことや、細長い形状の軟骨組織の誘導効率が本研究の目標よりも低い結果であった。今後は、PDMSデバイスの形状検討および播種のタイミングや、人工軟骨組織の成熟化を一層促進できる可能性が高い液性因子を複数見出すことができているため、これらを用いた培養条件の検討を進めることで、生体に近い輪状軟骨パターンをもった移植可能な人工気管組織作製を行っていく。
|