研究実績の概要 |
肺がドライに保たれ、ガス交換が正常に営まれるためには、肺胞の隔壁機能が維持され、水溶性分子に対する透過性を低く保つことが不可欠である。この隔壁機能が障害を受けた場合、貯留した液体成分により肺での酸素取り込みが障害され、ARDS(acute respiratory distress syndrome,急性呼吸促迫症候群)などの重篤な呼吸不全に陥る。肺胞隔壁において、肺血管内皮細胞は血管内と肺組織との隔離に寄与することで、肺組織の恒常性維持に関わっている。この隔壁機能には、細胞間接着分子とその裏打ちに存在するアクチン細胞骨格が重要な役割を担う。アクチン細胞骨格の再編成にはRho-ROCKシグナリングが深く関与することが知られている。そこで本研究では、肺隔壁機能維持へのROCKおよびアクチン細胞骨格再編成の役割を明らかにすることを目的とする。今年度はROCK1/2遺伝子欠損マウスの肺切片の免疫染色により、血管内皮細胞間接着に主要な役割を担うVE-cadherin、β-catenin、p120-cateninなどの局在がROCK欠損で変容することを明らかにした。また、免疫沈降法を用いてVE-cadherinとβ-cateninの複合体形成能がROCK欠損により低下することを明らかにした。これは血管内皮細胞間接着が減弱した要因の一つであると考えられる。昨年度の結果と合わせて、ROCKが血管内皮細胞間接着の制御を介して、肺血管透過性および呼吸機能の維持に寄与することが明らかとなった。本研究結果をまとめ、FEBS Open Bioに投稿し、掲載された(Akamine T. et al., FEBS Open Bio, 2024)。
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