近年、様々な組織において、発生や再生の中心となる組織幹細胞が同定されている。一方で、慢性炎症と癌の関係は、1856年に病理学者Virchowにより指摘されて以来の歴史を有した研究テーマである。現在では、食道や胃、肝臓、子宮など、様々な臓器で慢性炎症から発癌につながる機序の解明が進んでいる。肺においても、慢性炎症が病態である間質性肺炎と肺癌が合併しやすいことが臨床的に知られており、慢性炎症からの発癌が推定される。しかし、間質性肺炎からの肺癌発症の分子生物学的機序についてはこれまで明らかにされていない。申請者が取り組んできた研究において、遺伝性間質性肺炎の発症には肺幹細胞である2型肺胞上皮細胞の異常が病態に寄与していることや、マウスにおいて2型肺胞上皮細胞に特定の遺伝子異常を惹起すると肺癌が発生することが報告されている。以上から、慢性炎症である間質性肺炎と肺癌に幹細胞学観点を組み入れ、新たな慢性炎症からの発癌メカニズムを見出すことを目的とした。 今年度は申請者の異動に伴い、東京大学にてヒトiPS細胞由来肺オルガノイドの作製体制を立ち上げた。このヒトiPS細胞由来肺オルガノイドには肺の組織幹細胞である2型肺胞上皮細胞が約20%含まれていることをフローサイトメーターで確認した。加えて、RNA-seqなどの網羅的トランスクリプトーム解析の体制も構築した。そして、幹細胞学視点からの研究として、昨年度、染色評価に適した幹細胞マーカーとして策定したTTF-1やSOX9、SOX2について染色性を確認した。加えて、肺癌の統合的理解のため、肺がんに関する論文発表や学会発表を行った。
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