急性肺傷害(Acute lung injury: ALI)における無菌性炎症の重要性が示されているが、その炎症がどのように惹起され、傷害が進展していくかは未だ不明な点が多い。近年、様々な病態における炎症が、制御された細胞死(Regulated cell death: RCD)を起点として起こってくることが明らかになってきた。特に、申請者がこれまで研究をしてきたインフラマソームは炎症性サイトカインであるIL-1βの放出を伴うPyroptosisという炎症性細胞死を引き起こす。そこでALIにおけるPyroptosisを含めた細胞死および炎症惹起機構の解明を目的に本研究を遂行した。 ナノシリカは、化粧品や日用品、食品、工業用品などに多用されPM2.5にも含まれるナノマテリアルの1つで、人体への有害性が指摘されている。ナノシリカにマウスを暴露させると肺傷害を生じることも報告されている。そこでナノシリカALIモデルを用いて解析を行うこととした。 in vitroの解析で、ナノシリカ刺激は肺胞上皮細胞にCaspase-3依存的なGSDMEプロセシングを誘導したが、ナノシリカによる肺胞上皮細胞死はCaspase-3欠損で抑制されなかった。一方でRCDの1つであるNecroptosisを阻害するGSK’872(RIPK3 阻害剤)を添加したところ、ナノシリカによる肺胞上皮細胞死が抑制され、ナノシリカによる肺胞上皮細胞死にNecroptosisが関与していることが示唆された。 続いてin vivoの解析で、ナノシリカ気管内投与によるマウスALIモデルを作成した。現在はGSDME欠損マウスを用いた解析およびNecroptosisの阻害による肺傷害抑制効果を検証している。
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