研究課題/領域番号 |
22K16207
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
鈴木 知之 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 研究所・脂質生命科学研究部, 研究員 (60911112)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 肺サーファクタント / リン脂質 / ホスファチジルコリン / ホスファチジルグリセロール / ラマン法 |
研究実績の概要 |
研究目的は、リピドミクスを用いた肺サーファクタントリン脂質の合成酵素の解明と原子間力顕微鏡-ラマン法(TERS)を用いた肺サーファクタント構造・局在の解明である。 前者に関してまず、肺サーファクタントのリン脂質の主成分が親水基であるコリン基のホスファチジルコリン(PC)と親水基がグリセロール基のホスファチジルグリセロール(PG)であることをノンターゲットリピドミクス法にて確認した。続いて、PCに対しては従来のターゲットリピドミクス法で、PGに対しては新規手法を用いて、遺伝子欠損マウスから採取した肺サーファクタントを測定した。リゾリン脂質アシル転移酵素(LPLATs)の全14種中、現研究室で保有している13種のうち9種の測定が終了した。結果、アラキドン酸やドコサヘキサエン酸を含有するPCの合成酵素が明らかとなった。また、肺サーファクタントのPG成分の合成酵素について既報がないところ、リノール酸やドコサヘキサエン酸を含有するPG合成に関与する酵素を同定できた。これらの多価不飽和脂肪酸含有リン脂質は脂質メディエーターのソースとして考えられている一方、多数を占める飽和脂肪酸含有リン脂質とは異なった分子挙動をするため呼気吸気時のサーファクタントの圧縮展開を促進すると考えられている。呼吸機能について、現時点では既報済みのLPLAT8の他、肺サーファクタント関連蛋白欠損マウスで静肺コンプライアンスの低下が挙がったが、機序は不明であり解析中である。 後者に関して、まず標準資料であるマラトグリーンでのラマンシフトの撮影は成功し、現在技術習得に努めている。現在、協和界面科学社と連絡を取り、Langmuir-Wilhelmy法によるBALF検体の表面張力測定とLangmuir-Blodgett膜の作成の段取りを進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、予定通り交配が進んでいないマウスがいることが挙げられる。LPLAT1の全身欠損マウスは離乳前に死亡してしまい、LPLAT2は脂肪異栄養症を呈するため、ともに2型肺胞上皮特異的Creマウスと掛け合わせる必要があるところ、交配がうまく掛からず、細胞特異的欠損マウスの作成が遅れている。また、現在掛け合わせに用いているCreマウスは先天的にCreを発現するマウスであるため、胎児期や出生直後に同遺伝子が必要であった場合には死亡してしまう。このため、時期特異的Cre発現マウスと新規に掛け直す必要があり、この点を考慮し、現在同Creマウスの購入を進めている。 続いて、TERS技術習得に遅れが生じている。標準資料での撮影には成功しているが、標準資料自体のラマンシフトが通常のラマン法での撮影で部位によって検出されないことが確認され、Bruker社に問合せ中である。
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今後の研究の推進方策 |
LPLATsの残り4種の遺伝子欠損マウスの作成を進めるとともに、サーファクタント合成に関与する遺伝子欠損マウスの入手・作成を並行して進める。4種のうちLPLAT1とLPLAT2に関しては上述の通りで、残る2種はLPLAT4とLCLAT6である。LPLAT4は現在凍結精子にて保存中であり、体外受精で個体を作成する予定であり、LCLAT6は全身性欠損マウスを新規作成して、ラインを樹立中である。 呼吸機能に関して、現時点まで明らかな呼吸変動を呈するマウスが乏しいため、ターゲット遺伝子の裾野を広げ、サーファクタント合成に関わる遺伝子の欠損を入手・作成中である。例としては、脂肪酸伸長酵素、不飽和化酵素、PG合成関連酵素が挙げられる。まず肺サーファクタントリン脂質を測定し、変動がみられるようなら呼吸機能測定へと進める予定である。 上述のTERSにおける問題を速やかに解決し、LPLAT8欠損マウスまたは呼吸機能に変動がみられたサーファクタント関連蛋白の欠損マウス由来のBALFを用いて、Langmuir- Blodgett膜を作成し、リン脂質の構造・局在を観察する。ラマン分光は原理的に標識化を必要とせず、検出が可能であるが、感度上難しい場合には、重水素ラベル化リン脂質を用いてラマンシフトを検出する。
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