研究実績の概要 |
申請者らは神経-免疫連関による抗炎症メカニズムに着目し, マウスマクロファージのRAW 264に様々な条件下で自律神経刺激を与えることで抗炎症効果を評価した. RAW 264に炎症を惹起させるリポポリサッカライド(LPS)と, α7ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニストのGTS-21およびβ2アドレナリン受容体アゴニストのサルブタモールを投与すると,相乗的にTNF-αの値はさらに低下した. この相乗的抗炎症効果を発揮するメカニズムを明らかにすべく, α7ニコチン性アセチルコリン受容体とβ2アドレナリン受容体の下流遺伝子の同定を試みた. LPSとGTS-21またはサルブタモールを投与したマウスマクロファージのRNA-seq解析のデータから, 共通して発現が増強する遺伝子を抽出した. これらの中でもTspan13遺伝子が相乗的抗炎症効果の下流因子であることを新たに見出した. 一方で, 共通して発現が抑制される遺伝子の抽出も行った。炎症性サイトカイン・ケモカインと同様にNFκB抑制因子であるNfkbid遺伝子も抑制されていた。近年, 自己免疫性疾患や慢性炎症における炎症増幅経路として, IL-6 amplificationが注目されている. この経路において, NFκBは炎症を惹起する重要な役割を果たしており, 本成果は自律神経刺激が慢性炎症におけるポジティブフィードバックを抑制し炎症制御に有用である可能性を示唆している. 以上から, 迷走神経および交感神経刺激によって相乗的な抗炎症効果が得られ, その効果に関連する細胞内のメカニズム解明が進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
今後の展望として, 生体内において抗炎症・臓器保護効果が発揮される適切な自律神経刺激を見出す. これまで, マクロファージにおける細胞単位での抗炎症効果を明らかにしたが, 敗血症モデルマウスを用いた予備実験においても, 副交感神経と交感神経刺激による相乗的抗炎症効果が得られることが明らかになっている. 今後は細胞または臓器特異的に自律神経受容体をノックアウトした遺伝子組換えマウスを用いて, 生体内における抗炎症メカニズムの検討を行う.
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