腹膜透析は腹膜の半透過性の性質を利用して行うが、透析液に長時間さらされることで腹膜の癒着や線維化が進むことによって腹膜機能が低下し、その結果、物質透過性が亢進する。それに伴う除水効率の低下により血液透析への移行を余儀なくされることも多く、腹膜機能低下の予防・改善は現在の腹膜透析医療の課題の一つである。腹膜は腹膜中皮細胞(PMC)から構成されているため、PMCを補充することで癒着が改善したという細胞治療の有用性を示唆する報告もあるが、そのために十分な量のPMCを入手することは困難であり臨床応用には至っていない。ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)は体細胞から樹立可能であり増殖能をもつため、hiPSCからPMCを誘導が可能となれば多量のPMCを入手することが出来るため、腹膜再生医療を大きく進歩させると考えられる。そのため我々はhiPSCからPMCを誘導する方法を新たに開発し、その有用性を検討している。PMCの発生の系譜に沿って、まず側板中胚葉(LPM)ステージまで分化させてからPMCへ誘導したところ、誘導したPMC(iPMCs)はPMCマーカーの蛋白質であるCK-18、MSLN、WT1が発現していた。さらにiPMCsを継代すると、低分子には透過性を示すが、高分子には低透過性しか示さない均一な成熟細胞集団が形成され、細胞形態も初代培養PMCと類似していた。iPMCsの再生医療に対する効果を検討するため、再生・修復特性を評価すると、in vitro、in vivo両方で創傷部位特異的に細胞が集積することが確認できた。また物質の半透過性も有しており、腹膜透析における腹膜機能低下も改善し得ることが期待できる結果であった。
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