研究課題
糖尿病が原因となって腎機能が低下する糖尿病性腎症の発症予防は、透析患者数全体の抑制に繋がる為、これまでにない新たな予防・治療方法の開発が急務である。血糖調節は多数の臓器を複雑に制御する為、液性因子による調節だけでなく神経性調節も大きく寄与しており、特に自律神経が臓器連関に有用な役割を果たしている。本研究では、糖尿病腎症における自律神経系と免疫系の関連性を解析する為に、in vivo電気生理実験による自律神経活動測定実験を行い、ブドウ糖の消化管内受容と迷走神経求心路の関係性を明確にして、糖尿病腎症モデルでブドウ糖の消化管内受容による迷走神経求心路シグナルに変化があるか否か解析を行った。その結果、ブドウ糖を胃又は腸内に投与すると麻酔下マウスの内臓迷走神経求心路は活性化したが、門脈内にブドウ糖を投与すると逆に迷走神経肝臓枝活動は低下した。消化管内へのブドウ糖投与による迷走神経活性化反応は、糖尿病腎症軽微モデルのdb/dbマウスや糖尿病腎症増悪モデルのストレプトゾトシン誘発性糖尿病マウスにおいても観察された。また、ブドウ糖が迷走神経求心路に直接作用するか否か明確にする為に、迷走神経求心路の神経節(nodose ganglion)におけるブドウ糖輸送担体のmRNA発現をRT-PCR法で確認した。これらの実験結果から、消化管迷走神経求心路からのブドウ糖受容シグナルは、野生型マウスと同様に糖尿病腎症モデルマウスでも残存していることから、求心路以降の「脳→遠心路自律神経系」における変容が糖尿病腎症モデルマウスで惹起されている可能性が示唆された。今後はこの可能性を探る実験を行う。
2: おおむね順調に進展している
ブドウ糖による感覚経路受容が糖尿病腎症モデルにおいても確認でき、迷走神経求心路におけるブドウ糖輸送担体の発現についても確認した。従って、糖尿病腎症と迷走神経求心路の関連性を確認することはできたことから、迷走神経求心路特異的にブドウ糖輸送担体を欠損したマウスの作製を行って解析をしていく。
糖尿病腎症モデルマウスとしてストレプトゾトシン誘発性マウスを用いて解析を行ったが、別系統のAkitaマウスにおいても解析を行う。さらに、求心路迷走神経の投射先の脳・延髄と遠心路自律神経へのブドウ糖投与作用についても解析を行う。
当初の予想以上に使用する動物実験数と使用薬品・消耗品が節約できた為、次年度に繰り越して使用する。使用計画としては、遺伝子組換えマウスの作製や実験試薬への充当を考えている。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Int J Nephrol.
巻: 2022 ページ: 2718810
10.1155/2022/2718810.