黒色真菌症は稀であるが、皮膚のみでなく全身に播種し致死的であることから発展途上国を中心に世界中で問題となっている。黒色真菌症は菌種により治療法が異なり迅速に菌種を同定すること重要であるが、菌種同定は専門性が高く、時間を要する点が問題であった。質量分析器(MALDI-TOF MS)を用いた菌種同定法は迅速・簡便でありすでに細菌同定に実用化されている。本研究は、MALDI-TOF MSを用いて黒色真菌の迅速同定を確立するものである。黒色真菌症の中でも頻度の高いExophiala属を対象としてMALDI-TOF MSの有用性を検討した。現在販売されているライブラリ(データベース)には黒色真菌の登録がほぼない状態であることから、基準となる菌株を登録しin-houseライブラリを作成した。 検査の前処理法としては、現在使用されているMALDI-TOF MSで糸状菌同定する際の前処理方法は繁雑で時間を要することから、斜面培地で造成したコロニーを直接利用する前処理法と、コロニーを触接検査する最も迅速な方法を比較検討した。従来の方法と比較し、検査結果のスコアは前者の方が後者に比べて従来法との差が少なく、実臨床に適していると考えた。この前処理法を使用して、当施設に同定依頼となったExophiala属をMALDI-TOF MSで検査を行った。照合するデータベースは従来のライブラリに加え、上記の新たに登録したin-houseライブラリを使用した。結果として、30/31株で最もスコアの高い菌種は遺伝子同定の菌種と一致した。MALDI-TOF MSのライブラリの充実と前処理法の工夫により、Exophiala属については同定が可能であると示唆された。
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