研究課題
血管は管腔を形成する血管内皮細胞と周囲を被覆する周細胞で構成される。組織障害時に生じる血管新生の過程では、内皮細胞の出芽により未熟な新生血管が形成されるが、周細胞が接着することで血管が成熟化し、血流のある機能的な血管が形成される。我々はこれまで、周細胞に発現する Ninjurin-1(Ninj1)が創傷治癒と機能的血管の形成に関わることを見出した。一方で、糖尿病マウスでは一般に創傷治癒が遅延し、毛細血管では周細胞の減少、透過性亢進などの機能異常が報告されている。糖尿病マウスの組織では Ninj1が過剰に発現しており、過剰なNinj1の発現が糖尿病の創傷治癒遅延へ影響している可能性を考えた。そこで本研究では、糖尿病の創傷治癒遅延とNinj1をテーマとし、①糖尿病の創傷治癒遅延とNin1の関連性について、②過剰なNinj1の発現を外用剤で調整することで糖尿病の創傷治癒にどのように影響するか、の2点について解析する。本年度はNinj1ペプチド含有徐放粒子(PLGAナノ粒子)の作成を開始した。また一方で、予備実験として糖尿病モデルマウスの作成を試み、糖尿病マウスの正常皮膚および創傷辺縁の新生血管を観察した。予備実験で糖尿病マウスに創傷を作成し、糖尿病マウスではコントロールマウスと比較し創傷治癒が遅延していることを確認した。
3: やや遅れている
実験開始時期が遅れたことに加え、Ninj1ペプチド含有徐放粒子(PLGAナノ粒子)の作成がまだ完了おらず、実験の進行が予定よりやや遅れている。一方で予備実験として、糖尿病マウスの耳介および創傷皮膚の血管を観察し、コントロールマウスとの血管構造の比較を行った。また糖尿病マウスに創傷を作成し、創傷治癒実験も試行中である。Ninj1ペプチド含有徐放粒子の作成がまだ完了していないため、外用剤の至適条件の検討や創傷への外用剤を用いた本実験までには到達していない。
Ninj1ペプチド含有徐放粒子を用いて、基剤と混合し外用剤を作成する。予備実験を経て投与方法や基剤の選択を行い、至適濃度などの条件検討を行う。基剤や投与方法が確定したら、Ninj1ペプチド含有徐放粒子を含んだ外用剤を糖尿病マウスの創傷に塗布し、コントロール群と創傷面積を比較して創傷治癒遅延に差が生じるかを評価する。Ninj1ペプチド含有徐放粒子を外用した糖尿病マウスで創傷治癒の促進が得られた場合、潰瘍の病理組織学的評価や創傷辺縁の新生血管の三次元的な観察を行う。とくに新生血管については、血流を伴う機能的血管の形成と周細胞に着目し、創傷治癒促進の機序について解析を行う予定である。
Ninj1ペプチド含有徐放粒子の作成が完了していないため、本実験がまだ行われていないことが次年度使用額が生じた主な理由である。次年度にNinj1ペプチド含有徐放粒子の作成が完了する予定であり、そのための費用として充てる予定である。また、予備実験終了後に糖尿病マウスに外用剤を用いた本実験を行う予定であり、実験動物の繁殖・管理や創傷治癒実験に必要な物品費としても使用する予定である。
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JID Innov . 2022 Jul 7;2(6):100141
巻: 2 ページ: -
10.1016/j.xjidi.2022.100141