研究実績の概要 |
研究期間全般を通して、紫外線でケラチノサイトから誘導されるトリプトファン代謝物である6-Formylindo(3,2b)carbazole(FICZ)が皮膚T細胞性リンパ腫(CTCL)において腫瘍細胞および腫瘍随伴性マクロファージ(Tumor-associated macrophages: TAMs)など腫瘍間質細胞に与える明らかにした。さらにFICZ刺激で誘導される物質にPAI-1、MMP-9など血管新生因子が複数含まれていることが明らかになった。そのため、さらに紫外線により誘導されるPAI-1のCTCLへの影響を検証するためヒト臨床検体で評価した。その結果、腫瘤期の患者血清では、斑状期・局面期に比べてPAI-1濃度が有意に上昇していること、血管新生因子の中でMMP-9がPAI-1の増加に並行して腫瘤期患者の血清中で増加していること、また真皮における血管新生が促進することにより腫瘍が進行することが示された。CTCLにおけるTAMsの表現系であるM2マクロファージに対してPAI-1の作用を検証したところ、PAI-1はM2マクロファージからMMP-9などの産生を増加させることが明らかとなった。さらにPAI-1はCTCL細胞株(HUT78)においてもMMP-9の産生を増加させることが示され、MMP-9をマウスCTCLモデル(EL-4)で抑制すると、腫瘍内の血管内皮細胞が減少することが確認された。以上の結果を2024年にHematologic Oncologyに発表した。 本研究ではPAI-1の抑制がCTCLにおいて重要な役割を果たすことが示され、将来的にはCTCLの治療薬としてPAI-1阻害薬の適応拡大が進められることが期待される。以上、本研究は新たなCTCLの生物学的メカニズムを解明したことに加え、近い将来の新規CTCL治療薬の開発につながる画期的な研究であったと考える。
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