研究課題/領域番号 |
22K16283
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 由香 九州大学, 大学病院, 学術研究員 (00746464)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 標的分子 / 皮膚悪性腫瘍 / マイクロアレイ / 抗体薬物複合体 |
研究実績の概要 |
抗体薬物複合体は新しい作用機序をもつ分子標的薬であるが、皮膚がん治療における知見はいまだ少ない。また、研究用として利用できる抗体薬物複合体も限られているため、関連する研究の促進が妨げられている。そこで本研究では、皮膚がんに対する分子標的治療に応用可能な標的分子の同定と、それに対する抗体薬物複合体の作製法を確立してその有効性を検証することを目的としている。 令和4年度は、主に皮膚がん細胞を用いて標的分子の同定を行った。具体的には、正常な皮膚細胞(表皮角化細胞、表皮メラノサイト)と皮膚がん細胞株(有棘細胞癌1種、メラノーマ2種)からRNAを抽出してマイクロアレイによって各種遺伝子の発現を比較し、がん細胞において高く発現している遺伝子を検索した。マイクロアレイの結果から、有棘細胞癌では82種、メラノーマでは42種の遺伝子の発現が、正常細胞に比較して増加していた。さらに、発現増加の程度が高かった上位の遺伝子に関してリアルタイムPCRで遺伝子発現を検証したところ、マイクロアレイと同じ結果を示す遺伝子が30種(有棘細胞癌で12種、メラノーマで18種)選出されたが、このうち市販の抗体が利用可能なものに関して、ウエスタンブロットと免疫染色を行ってタンパク質発現を確認した。その結果、メラノーマで発現が増加していた3種の標的候補分子はタンパク質としても発現されていたが、タンパク質発現が細胞膜に局在していたのは1種のみであった。抗体薬物複合体は細胞膜上の標的分子を認識して結合するため、この1種を今後の検討の第一候補として選出することができた。 これを受けて、抗体薬物複合体の作製に必要な試薬類を準備し、詳細な作製条件の検討に着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、正常皮膚細胞と皮膚がん細胞株との遺伝子発現の比較及び遺伝子・タンパク質発現の検証を行って、抗体薬物複合体を作製するための標的分子を選出することができている。また、抗体薬物複合体の作製に関しても条件検討に着手しており、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、前年度に同定した標的分子に対する抗体薬物複合体を作製し、細胞株を用いてその効果を検証することを目指す。具体的には、還元した抗体を薬物-リンカー複合体と反応させ、限外ろ過/抗体精製カラムを用いて夾雑物を除去したものを目的の抗体薬物複合体とする。精製度及び抗体-薬物の結合比は高速液体クロマトグラフィーにより確認する。精製度が低い場合、及び抗体-薬物の結合比が目的に合わない場合は反応条件を再考する。 また、作製した抗体薬物複合体を正常皮膚細胞及び皮膚がん細胞株に添加培養し、生細胞数及びアポトーシスの状態を評価する。さらに、siRNAを用いて標的分子の発現を抑制した皮膚がん細胞に抗体薬物複合体を添加培養し、標的分子の発現が低下した状態では抗体薬物複合体の効果が減弱することを確認して、作製した抗体薬物複合体の効果が特異的であることを確認する。
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