研究課題
2022年度までの検討より、Apoptosis signal-regulating kinase 1(ASK1)を欠損すると、T細胞での芳香族炭化水素受容体(AhR)発現が増強されIL-22産生が増加し、その結果、角化細胞の増殖が促進され、乾癬が増悪化する可能性が示されたが、ASK1欠損角化細胞でのAhR発現亢進の意味が不明であった。そこで、2023年度は、ASK1による角化細胞の分化誘導におけるAhRの関与について検討した。① ASK1欠損マウスでの表皮角化細胞の分化と増殖:野生型およびASK1欠損マウスの尻尾の皮膚をDispase処理後、表皮を真皮から剥がしトリプシン処理し、表皮角化細胞を調製した。Ca2+で刺激し分化を誘導し、細胞増殖を比較すると、ASK1欠損では、増殖が亢進し、ウエスタンブロット解析により発現を比較すると、ASK1欠損でAhRや分化マーカーのLoricrinの発現誘導が早く、分化誘導が促進された。② マウス角化細胞株PAM212での分化と増殖:マウス角化細胞株PAM212細胞にASK1のCRISPR/Cas9ベクターを遺伝子導入し、ウエスタンブロット解析によりその発現の欠失を確認した細胞を作製した。キレート剤処理によりCa2+vを除去したFBSを用いて、Ca2+で分化誘導したところ、上記と同様に、ASK1欠失PAM212細胞で、AhRやLoricrinの発現が亢進している傾向が見られた。③ 内在性AhR発現への効果: PAM212に、HAタグを付加した野生型ASK-HAおよび恒常的活性型ASK-ΔN-HA、ドミナントネガティブ型ASK1-KR-HAの発現ベクターを遺伝子導入後、ウエスタンブロット解析を行い、ASK1の内在性AhR発現と角化細胞の分化マーカー発現への影響を調べた。その結果、ASK1の発現増強に対して、AhR発現の逆相関が見られた。
2: おおむね順調に進展している
p38 MAPキナーゼの阻害が乾癬発症を抑制することが報告されているが、その上流のストレス応答MAPキナーゼASK1は、反対に、乾癬発症を抑制し、その作用機序にAhRが関与していることなどが明らかになってきているので、ほぼ計画の予定通り進んでいる。
これまでの結果より、T細胞と同様に角化細胞においてもASK1とAhRの発現が逆相関し、乾癬の発症を調節している可能性が示唆される。そこで、2024年度は、ASK1とAhRの直接の会合の可能性について検討し、その意義や作用機序についても明らかにする。①再構成系でのASK1とAhRの会合:野生型および欠失型ASK1-HAとAhR-MYC発現ベクターをヒト胎児腎細胞株HEK293T細胞にFugene 6を用いて一過性に遺伝子導入し細胞溶解液を調製し、タグに対する抗体で免疫沈降後ウエスタンブロットにより、両者が会合するか、会合部位についても検討する。②ASK1と内在性AhRの会合:まず、内在性AhR発現の高いヒト肝癌由来細胞株HepG2細胞に、各種ASK1-HA発現ベクターを一過性に遺伝子導入後、細胞溶解液を調製し、HAタグに対する抗体またはAhRの抗体で免疫沈降反応後、それぞれ反対の抗体でウエスタンブロットを行い、遺伝子導入したASK1-HAに内在性AhRが会合するか検討する。次に、Ca2+で分化誘導したマウス角化細胞株PAM212細胞を用いて、同様に両者の会合を検討する。③ASK1とAhRの意義:角化細胞における両者の会合の意義は、ASK1発現がないと、AhR発現が増強しその下流のシグナルとしてP450薬物代謝酵素CYP1A1経路を活性し乾癬発症を増悪化し、一方、ASK1発現が強くなると両者が会合しAhR発現が低下し、酸化ストレス応答転写因子NRF2経路を活性化し乾癬発症を改善する可能性を考えている。そこで、野生型PAM212およびASK1欠失PAM212細胞を、イミキモドで刺激し、ウエスタンブロット解析よりCYP1A1とNRF2のどちらが発現増強されるか比較検討する。
使用金額の端数を合わせることができなかったため、次年度使用が生じた。残金は、次年度の消耗品代に加えて使用する計画である。
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