研究課題
本研究は造血幹細胞の加齢を統合的に理解することで、造血器腫瘍発症リスク低減を目指した介入法の創出を目的とするものである。本年度は研究計画に基づき、申請者らが同定した新規老化マーカーであるCluのレポーターマウスを用いた造血幹細胞加齢機序の解析を行った。Clu遺伝子領域にGFP配列を挿入したマウスを用いて、造血幹細胞におけるClu陽性割合を経時的に解析を行った。その結果、造血幹細胞分画におけるClu陽性率は2-6ヶ月齢までは1-2割程度であるのに対して、7-12ヶ月齢の間で指数関数的に増加し、18ヶ月齢では9割以上になることが明らかとなった。続いて、18ヶ月齢の老齢マウスから回収したClu陽性とClu陰性造血幹細胞を用いて、移植実験から造血幹細胞活性を評価したところ、Clu陽性細胞は幹細胞活性が示さない機能不全型であることが明らかとなった。さらにClu陰性細胞は老齢マウスにおいても一定の造血幹細胞活性を示すことが明らかとなった。次に、老齢マウスから回収したClu陽性とClu陰性の造血幹細胞を用いて、RNA-sequence解析とATAC-sequence解析から、トランスクリプトームと転写因子の解析を行った。その結果、老齢マウスにおけるClu陰性造血幹細胞は若齢造血幹細胞と類似性が高く幹細胞活性が高いことが明らかとなった。また、Clu陽性造血幹細胞はClu陰性造血幹細胞と比較して、炎症状態の活性化とミトコンドリア機能不全を示唆しており、このような状態異常が骨髄再構築の機能不全を導いていること考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画では、老齢マウスにおけるClu陽性率の検証とNGS解析による網羅的な遺伝子変動解析を予定していた。本年度では、当初の計画に加え、骨髄移植による造血幹細胞活性の定量的評価と共同研究による電子顕微鏡を用いた形態学的解析を行い、Clu陽性造血幹細胞の機能不全を示す結果が得られた。
今後の研究の推進方策として、これまでの成果を論文として発表を行う。既に加齢研究において新規性の高い重要な成果が得られており、次年度は研究成果をまとめ発表することに注力する。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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