研究課題
多発性骨髄腫は難治性の造血器腫瘍であり、これまで複数の予後不良遺伝子異常が明らかとなった。私たちはそのなかで転写因子MAFBが、転座による異常発現だけでなく、細胞に与えるストレスによって誘導されることを認めていた。したがって、細胞へのストレスが高い骨髄微小環境において、MAFBが薬剤耐性や細胞生存に寄与している可能性があり、検討を継続している。・骨髄腫微小環境で酸化ストレスの緩和に関与し抗アポトーシスに作用するヘムオキシゲナーゼ-1(HMOX1)が、低酸素環境におけるMAFBの標的であることを明らかにした。MAFBは低酸素刺激によって発現が上昇し、そのノックダウンによって正常酸素培養では変化が起こらないが、低酸素環境ではHMOX1を含む特異的な標的遺伝子を制御することを明らかにした(Cancer Med. 2023. 12(8):9709-9722)。・さらに、MAFBのノックダウンだけではなく、CRISPR/Cas9キットとエレクトロポレーションを使用し、細胞株に対するノックアウトに成功した。今後、ノックアウトした細胞をより純化し、フェノタイプや微小環境を模した培養環境での遺伝子発現解析を実施する予定である。本研究の目的が達成されれば、これまで抗体療法以外の分子標的薬が限られていた多発性骨髄腫において、新規治療標的分子が明らかとなる。さらに、骨髄微小環境で発現が上昇する遺伝子に対する治療戦略の構築につながり、一度寛解した患者の再発防止戦略にも寄与すると期待できる。
2: おおむね順調に進展している
前述のように、MAFBの機能について部分的にすでに1報査読付き英文誌にアクセプトすることができたこと、さらなるMAFBの骨髄腫微小環境における機能解析のため、ノックアウトを成功させることができたため、おおむね順調に進展していると判断しました。
MAFBのCRISPR/Cas9キットとエレクトロポレーションを使用し、細胞株に対するノックアウトに成功したが、ノックアウトされた細胞の割合が低く、今後ソーティングや薬剤による選別を行う必要がある。十分な純度となれば、低酸素暴露などの微小環境を模した培養環境でcDNAマイクロアレイを行い標的遺伝子を網羅的に抽出し、重要な遺伝子について骨髄腫の分子病態解明に寄与するかや新規治療標的となりうるかを検討していく。
使用した消耗品が予定より若干少なかったため次年次使用額が128,897円生じた。この資金は2023年度の実験の消耗品におもに充当する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
Cancer Medicine
巻: 12 ページ: 9709-9722
10.1002/cam4.5679