低酸素微小環境に適応するがん細胞が薬剤抵抗性を獲得し、再発や再燃のもととなるという考え方はさまざまながん種で議論されている。造血器腫瘍においては、骨髄内の骨内膜ニッチと呼ばれる造血幹細胞が潜むような低酸素環境に、治療抵抗性分画が存在すると想定されている。多発性骨髄腫において、低酸素応答によって発現が亢進する遺伝子は、骨病変、播種、解糖系亢進などのさまざまな機序により悪性化を導くことが明らかとなってきたが、これらの分子に対する分子標的療法は開発されていない。 本研究では、低酸素環境で発現が亢進する遺伝子のうち、HMOX1に着目した。HMOX1はヘムオキシゲナーゼ-1をコードする。ヘムオキシゲナーゼ-1は活性酸素を中和する働きがあり、低酸素ストレスによって過剰に産生された活性酸素から細胞死をまぬがれるように働くことがわかった。HMOX1のノックダウンによって、in vitroおよびin vivoにおいて抗骨髄腫薬プロテアソーム阻害薬の感受性を亢進させた。これは、プロテアソーム阻害薬が発生させる過剰な活性酸素を除去しきれなくなり細胞死が誘導されたものと考えられる。HMOX1の制御因子として転写因子MAFBを検討した。MAFBは多発性骨髄腫のがん遺伝子であり、MAFBもまたストレス誘導性に亢進することがわかり、患者検体のMAFBとHMOX1の発現には強い正の相関が認められた。本研究の発展により、これまでなかなか実臨床と結びつかなかった、低酸素応答のバイオロジーと、多発性骨髄腫の既知の予後不良因子MAFBの関係を明らかにするものであり、新規治療法を生み出す橋渡し研究となりうる。
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