研究実績の概要 |
本研究は造血細胞移植後のリンパ球を解析することにより、造血細胞移植後の老化T細胞サブセットの機能と動態を明らかにするとともに、老化T細胞が慢性移植片対宿主病 (GVHD) に及ぼす影響を明らかにすることで、老化T細胞の除去が慢性GVHDの新たな治療選択肢となる可能性を検討することを目的とした。 老化T細胞は高度に分化したT細胞 の画分に含まれるが、同種造血細胞移植後の末梢血液リンパ球の解析により、CD3+, CD4+ or CD8+, CCR7-, CD45RA+, CD27-の分化したエフェクターT細胞分画が慢性GVHDを発症していた症例において有意にその割合が高くなることを見出した。さらにより詳細なサブセット解析 (CD3+, CD4+ or CD8+, CD27-, CD28-, CD45RA+, KLRG1+, CD57+)において、老化T細胞分画がGVHD発症者で有意に高いことを見出した。さらにGVHD発症者においては老化T細胞画分で特徴的な炎症性サイトカイン・老化マーカーの変化、シグナル伝達経路の変化を呈することが確認された。さらに、特に同種造血幹細胞移植後、特に臍帯血移植後の経時的な老化T細胞の動態が明らかとなった。 今後は抗老化作用化合物の添加による老化T細胞の除去による効果をin vitroで検証するとともに、最終的には有望と考えられる化合物をGVHDマウスモデルに適用し老化T細胞の除去が慢性GVHD抑制に寄与するかどうかを検討する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究にて老化T細胞サブセットが同種造血細胞移植後の慢性GVHD発症例で豊富に存在していることが示された。またGVHD発症例での特徴的な炎症性サイトカインやシグナル伝達経路が示されるとともに、老化T細胞サブセットの同種造血幹細胞移植後の動態が示された。 今後はまず、老化T細胞のin vitroでの抗老化作用化合物への反応性の評価を行う。老化T細胞の維持に関わるp38の阻害物質 (BIRB796)、老化細胞を選択的に除去すると近年報告があるBcl2阻害薬 (ABT-263) を用いる。同種造血幹細胞移植後患者由来のT細胞をin vitroで培養し、これらの阻害薬を添加・非添加に分け、培養後の細胞サブセットの割合の変化を観察し、これらの薬剤が老化T細胞の除去に有用かどうかを評価する。これにより化合物の治療としての有望性を検討する。 続いてマウス慢性GVHDモデルを用いた評価を行う。BALB/cマウスへの亜致死性放射線照射後、B10.D2マウスの骨髄細胞と脾臓細胞を移植する、マウス慢性GVHDモデルを用いる。in vitroでの評価を経て、有望と考えられる阻害物質に関して、投与群と非投与群に分けて評価を行う。末梢血の老化T細胞をフローサイトメトリーで経時的に評価を行うとともに(マウスの老化T細胞はCD3+, CD4+ or CD8+, CD44+, CD62L-, PD-1+, CD153+と定義)、慢性GVHDの標的臓器(皮膚、唾液腺、肺、肝臓)に関して主に病理組織学的に慢性GVHDとしての所見 (線維化・炎症) に加えて老化T細胞の浸潤の程度、SASPなどの発現を免疫染色にて評価する。本評価によりマウス慢性GVHDモデルにおいての老化T細胞の除去効率、またそれによる慢性GVHDの評価を行い、慢性GVHDへの治療応用への有効性を検討する。
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