T細胞はリンパ球前駆細胞にNotchシグナルが誘導されることで分化を開始するが、Notchシグナルがどのような分子メカニズムで初期T細胞の発生を制御しているのかは不明な点が多い。特に、最初期の分化段階において、Notch1と同様に高発現しているNotch2からのシグナルについてはほとんど解析されていない。我々は、Cas9ノックインEBF1欠損マウスから、T細胞分化能を長期に保持するリンパ球前駆細胞株を樹立した。本研究は、リンパ球前駆細胞株を用いて、NotchシグナルによるT細胞系列決定の分子メカニズムの解明を目的とする。 我々は、CRISPR/Cas9システムを用いることで、Notch1、Notch2を単独に発現または両欠失するリンパ球前駆細胞株を独自に確立した。これらの細胞を用いた解析から、Notch2シグナルは、Tcf7などの最初期のT細胞分化における重要なNotch標的遺伝子を十分に活性化できないため、Notch1に比べT細胞分化能が非常に弱いことが明らかになった。また、Notch1欠失細胞にTcf7を導入し、さらにNotch2からのシグナルを誘導させると、T細胞分化は部分的に回復することが分かった。この結果から、NotchシグナルはTcf7とそれ以外の遺伝子の発現を誘導することで初期T細胞分化を制御していることが示唆された。 次に、Notchシグナル依存的かつTcf7非依存的に発現が誘導される遺伝子の同定をするために、Notch1欠失リンパ球前駆細胞株にTcf7の導入およびNotchシグナルを誘導し、トランスクリプトーム解析を行った。解析の結果、転写制御に関連する遺伝子を複数同定した。現在、これらの候補遺伝子を欠失させたリンパ球前駆細胞株を用いて、T細胞分化への寄与について解析を進めている。
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