研究課題/領域番号 |
22K16358
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
長谷川 久紀 東京医科歯科大学, 東京医科歯科大学病院, 講師 (00707028)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | ヒトiPS細胞由来筋細胞 / ヒトiPS細胞由来CD8T細胞 / 多発性筋炎 / ヒト筋細胞-CD8T細胞-共培養系 / 筋細胞傷害 |
研究実績の概要 |
多発性筋炎/皮膚筋炎(PM/DM)では、病態に非特異的な既存の免疫抑制療法に対し副作用や治療抵抗性を示す症例が多く、病態に基づいた新規治療薬の開発が重要である。当研究室は、自己免疫性筋炎の発症には、細胞傷害性CD8T細胞(CTL)だけでなく、筋局所の自然免疫活性化も必須であることを示しているが、PM/DM患者の筋病変に浸潤しているマクロファージ(Mψ) や筋細胞自体の自然免疫活性化への寄与の理解は十分でない。本研究では、ヒトiPS細胞(hiPSC)由来筋細胞を抗原特異的に傷害するCTLの系に対してMψを混合培養し、Mψや筋細胞自体がCTLの筋細胞傷害能に与える影響の検証からPM/DMの病態解明を目指す。 PM/DMの病態特異的な抗原は同定されていないため、日本人の約60%がヘテロで有するHLA-A*24:02の特異抗原であるWT1ペプチドと、WT1特異的再生CTL(rCTL)に着目した(Cancer Res 2016;76:6839)。京都大学河本宏先生よりWT1特異的rCTLをいただき、HLA-A*24:02陽性の抗原提示細胞(LCL)を用い、再生CTLを当研究室でも増殖・活性化させた。 次に、当研究室で樹立済みのPM患者由来hiPSCのHLAを解析し、HLA-A*24:02陽性であった1例のhiPSCに対し筋原生転写因子MyoDを導入して、高率に筋細胞へと分化可能なMyoD強発現hiPSCバルクを樹立し、適宜筋細胞へ分化させ、活性化したWT1特異的rCTLとWT1存在下で共培養することで、CTLによる筋細胞傷害を誘導できた。また、CTLによる筋細胞傷害がHLA拘束性で抗原特異的であることも確認した。 今後、hiPSCからMψも分化させ、hiPSC由来の筋細胞-CTL- Mψの混合培養系でのrCTLの筋細胞傷害能の変化から、Mψや筋細胞の自然免疫活性化への寄与を考察する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、hiPSC由来筋細胞に対する抗原特異的CTLによる筋細胞傷害系の確立をまずは目指した。 末梢血CD34陽性非リンパ球細胞から樹立済みの5例のPM患者由来hiPSCの内、3例のドナーの血液のHLAハプロタイプ解析を行い、1例がHLA-A*24:02陽性であることを確認した。 HLA-A*24:02陽性、陰性のhiPSC株それぞれを、pluripro基質と培地で培養中に、Fugene HDを用いてドキシサイクリン(Dox) 誘導性MyoD発現カセットとネオマイシン(Neo)耐性遺伝子を導入し、Neo存在下で多クローン性MyoD-hiPS細胞バルクを樹立した。Dox誘導翌日にMyoD強発現分画をflow cytometerで回収後、Dox非存在下のLaminin 511培地で未分化状態を維持したまま増殖させ、高率に筋細胞へと分化可能なMyoD強発現hiPSCバルクを樹立し、以後、この細胞バルクをDox存在下の筋分化条件で培養し、筋細胞へと分化させた。 次に、河本研究室よりいただいたWT1特異的rCTLを、WT1存在下でそれを提示するLCLにより増殖・活性化させ、hiPSCより分化させた筋細胞と共培養した。筋細胞の細胞傷害度は、筋細胞に取り込ませたcalceinの培養上清への放出量を蛍光度にて評価した。 HLA-A*24:02陽性患者の複数のhiPSC株から樹立したMyoD強発現hiPSCバルク由来の筋細胞は、それぞれWT1存在下で、rCTL数に応じた抗原特異的な細胞傷害を受けた。また、rCTLの筋細胞傷害は、WT1非存在下やタクロリムス存在下、またWT1存在下でもHLA-A*24:02陰性のhiPSC由来筋細胞との共培養では抑制された。以上より、hiPSCを用い、ヒト細胞由来のCTLによる筋細胞に対するHLA拘束性の抗原特異的な細胞傷害系を確立したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、本研究課題のbaseとなるhiPSCを用いたヒト細胞由来のCTLによる筋細胞傷害系の確立に成功した。そこで2023年度は、当研究室で開発した①hiPSCから高率に筋細胞へと分化可能なMyoD強発現hiPSCバルクの樹立方法と、②hiPSCを用いたヒト細胞由来のCTLによる筋細胞傷害系の確立、に関し論文化すること(海外雑誌への投稿)に主眼をおく。今までの実験結果の執筆とrevise実験に多くの時間を要すると思われる。また、今までの結果を、適宜国内外の学会で発表していく予定である。 その後、Pouyanfard S et al. Stem Cells 2021を参考に、同一PM患者由来hiPSCから、feeder細胞なしの条件で、SCF、VEGF、BMP4、Rock-Yを含む培地で胚様体へ分化させた後、M-CSF+IL-3刺激と培地の変更によりMψ前駆細胞、Mψ0へと分化させる。その後、hiPSC-Mψ0をLPS+IFNγまたはIL-4+IL-13で刺激し、Mψ1またはMψ2に分化させる。そして、確立した筋細胞傷害系において、各Mψサブセット(M1、M2)をそれぞれ混合培養し、再生CTLの筋細胞傷害に与える差異を評価する。 次に、自然免疫活性化因子として筋細胞由来のDAMPsが筋細胞-CTL- Mψ混合培養系に与える影響を検証する。別に準備したhiPS細胞由来筋細胞を過酸化水素水や低酸素環境下で培養して傷害を与え、筋細胞培養上清や筋細胞溶解液(以後、DAMPs含有液)を回収する。そして、筋細胞-CTL- Mψ混合培養系へのDAMPs含有液の有無による筋細胞傷害への影響や、DAMPsのMψや筋細胞への作用による自然免疫活性化への寄与(Mψ、筋細胞の細胞表面マーカーやサイトカイン発現プロファイル解析等)の評価を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、本研究課題の核となる、hiPSC由来筋細胞に対する抗原特異的なrCTLによる筋細胞傷害系の確立を目指した。共培養でのWT1抗原特異的rCTLによる筋細胞傷害の至適条件の検討(Effector細胞/Target細胞比、細胞培養培地組成、細胞傷害評価系の検討等)、WT1を提示するHLA-A*24:02陽性患者の複数のhiPSC株由来の筋細胞に対するrCTLによる筋細胞傷害の検証、HLA-A*24:02陰性患者のhiPSC由来の筋細胞に対するrCTLによる筋細胞傷害の検証、筋細胞とrCTL共培養時のWT1非存在下での筋細胞傷害の検証、筋細胞とrCTL共培養時のタクロリムス投与下での筋細胞傷害の検証など、複数回の実験の下、種々の検証を行い、hiPSC由来筋細胞に対する抗原特異的なrCTLによる筋細胞傷害系の確立に成功した。 以上、本年度の助成金は主に、hiPSCの維持・継代、筋細胞への分化、rCTLの増殖・活性化とその確認、などのための試薬代(各種培地、細胞培養用プレート、コーティング剤、サイトカイン、抗体など)に使用した。研究自体も当初の予定通りに進んでおり、助成金も当初予定通りの金額の使用となったが、試薬購入時のキャンペーンでの割引により616円という少額の繰り越しが発生した。
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