研究課題
世界的に非結核性抗酸菌(NTM)症の患者数が増加傾向にあり、本邦においても国内の肺NTM症罹患率は結核の罹患率を上回っており今後も患者数の増加が見込まれる新興感染症である。本邦の肺NTM症のうち9割を占める肺MAC症だが、菌が分離された患者のうち臨床的意義との関連が認められる症例の割合は5-6割程度である。つまり、肺MAC症患者のうち4割以上では患者から菌が分離されているにも関わらず、臨床的意義が伴わない。本研究においては、国内において患者数が著しい増加傾向にある肺MAC症について、菌側因子に焦点を当て、病態の進行に関わる病原性因子の探索を目的としている。今年度においては、肺MAC症発症患者および症状のない患者から分離された臨床分離株約300 株についてのショートリードシーケンスデータの取得を終了している。更にそれらを使用した予備的なゲノム解析の結果、肺MAC症原因菌として分類される菌種の中でも希少な菌種また亜種が分離されていることを見出した。また、それらの菌株の病原性評価の表現型解析試験としてマクロファージ内への侵入効率・細胞内での増殖能を定量的に解析するため、リポアラビノマンナン(LAM)抗体を使用して臨床分離株を標識し、ハイコンテントイメージングシステムとマシンラーニングを使用した細胞内菌量の定量評価システムの構築に成功した。この手法の確立により、臨床分離株を使ったハイスループットな解析が可能となった。更には、細胞内菌数の変化だけでなく細胞障害性の強い菌株を同様にスクリーニングするため、イメージングシステムにより細胞数・細胞の生死判定を実施し定量評価できる評価系を構築中である。これらのフェノタイプ解析により、株間による細胞障害性の違い・病原性の強弱を見出すことが可能となる。また、MAC標準株を使用した抗菌薬スクリーニングの評価系を構築中である。
2: おおむね順調に進展している
LAM抗体による菌体ラベリングとマシンラーニング手法の構築によって、多検体の臨床分離株を使用した評価系が確立されたため。このことによりゲノム解析により得られたジェノタイプと病原性に関わると考えられるフェノタイプとの比較が可能となり、病原性因子の探索が効率的に進められるようになったため。
構築したLAM抗体による菌体ラベリングとマシーンラーニングによる定量手法により、多検体の臨床分離株を使用したフェノタイプ解析を進めていく。細胞へ侵入能力、細胞内における増殖能力、細胞に対する細胞障害性を経過時間的に追っていくことにより表現系の整理を行う。これによって既に得ているゲノム情報との比較を行い、病原性因子となる標的の探索と特定を実施していく。
学会参加を見合わせたため。
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