研究課題/領域番号 |
22K16383
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
上滝 隆太郎 国立感染症研究所, 治療薬・ワクチン開発研究センター, 主任研究官 (20783674)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | SARS-CoV-2 / 液性免疫 |
研究実績の概要 |
本研究では、新型コロナウイルスワクチン接種により誘導される液性免疫応答について解析し、今後のワクチン戦略を考える上で基礎となる知見を得ることを目的とした。 初年度である本年度の成果として、まずワクチン接種前に感染歴のある被験者 (既感染者群) と感染歴のない被験者 (未感染者群) とで血漿中に含まれるSARS-CoV-2 receptor-binding domain (RBD) 結合IgG抗体価および血漿の中和活性を比較したところ、どちらも既感染者群で高かった。このとき、RBD結合IgG抗体価に対する中和活性の比を解析すると既感染者群で高いことが見出された。中和抗体は生体防御に大きく寄与することから、既感染者では未感染者と比べてワクチン接種によって中和比活性の高い抗体応答、すなわちより質の高い抗体応答が誘導されていることが示唆された。そこで、これら2群間の違いを詳細に検討することとした。中和活性にかかわる可能性のある因子として、2群間の血漿中のRBDに対するIgA抗体価を測定した結果、IgG抗体価と同様にIgA抗体価についても既感染者群でやや高いことが示された。しかし、IgG抗体価と比べてIgA抗体価はかなり低かったため、IgA抗体価の違いが上述の中和比活性の違いに大きく寄与しているとは考えづらい。そこで、次に各群の血漿RBD結合IgG抗体の結合親和性を測定し比較した。その結果、既感染者の血漿中に存在するRBD結合抗体のRBD結合親和性は未感染者のものよりも高いことが明らかとなった。血漿抗体の親和性成熟が質の高い中和抗体応答の誘導に大きく寄与する可能性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ワクチン接種者の血漿抗体を解析することにより、既感染者と未感染者とで誘導される抗体応答が質的に異なる可能性が示唆され、この違いに寄与しうる候補因子としてIgA抗体価および抗体の親和性を評価することができた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き既感染者群及び未感染者群で誘導されている血漿抗体応答について、どのような違いが両群の中和比活性の違いをもたらしているのか解析を続ける。このとき、抗原に対する曝露回数の違いが影響しているかどうか考慮するため、感染回復者検体を解析に加えることとする。本研究を推進することにより、中和比活性の高い抗体応答を誘導するにあたってどのような因子に着目していけばよいか明らかとなることが期待され、今後のワクチン開発に資する基礎的な知見を得られると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予想していたよりも実験がスムーズに進んだことにより、消耗品の購入費用を抑えられた。これにより、次年度に計画段階当初に予定していた額と同程度の予算を使うことができるようになるため、計画通りに研究を推進する。
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