研究課題/領域番号 |
22K16392
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
吉岡 直輝 名古屋大学, 環境医学研究所, 客員研究者 (10943590)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 慢性炎症 / マクロファージ / メタボリックシンドローム / 肥満 / 非アルコール性脂肪肝炎 |
研究実績の概要 |
本研究では、過栄養により誘導される代謝臓器(脂肪組織、肝臓)における慢性炎症と組織リモデリングにおける免疫シグナル分子DAP12の意義を検討する。DAP12はITAMモチーフを有する免疫シグナル分子で、細胞膜上でTrem2などと会合してシグナル伝達を担う。本年度は、DAP12欠損マウスを用いて、以下の検討を行った。 1)複数の飼料を用いて食餌性肥満モデルを作製し、脂肪組織や肝臓における遺伝子発現プロフィールや組織像を解析した。DAP12は、脂肪組織と肝臓の両方において、病態進展とともに発現上昇し、特にcrown-like structure(CLS)と称される特徴的な組織像に発現が限局していた。CLSは、死細胞(脂肪細胞、肝細胞)の周囲にマクロファージが集積し、内部の死細胞を貪食・処理する過程であり、炎症慢性化の起点となることを既に報告している。 2)CLS形成におけるDAP12の関与を明確化するため、(全身)DAP12欠損マウスと骨髄移植法による骨髄細胞特異的DAP12を欠損したマウスを用いて、食餌性肥満を誘導した。その結果、DAP12発現は骨髄細胞に限局して発現すること、DAP12欠損は体重増加や体脂肪量には影響を及ぼさないが、脂肪組織に浸潤するマクロファージが顕著に減少し、CLS形成も著減することを見出した。一方、DAP12欠損は、肝臓のマクロファージ数には大きな影響を及ぼさず、臓器特異的な機能を有している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過栄養が代謝臓器に慢性炎症を誘導するマウスモデルにおいて、DAP12の発現変化や局在を明らかにするとともに、DAP12欠損が及ぼす影響も予定通りに解析中である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、DAP12欠損が肥満に伴う脂肪組織へのマクロファージ浸潤に重要な役割を果たすことを見出した。この分子メカニズムとして、骨髄における単球分化、末梢血中への移動、脂肪組織への浸潤のどの過程にDAP12が作用しているかを検討する。走化性に関しては、in vitroにおけるboyden chamber法に加えて、in vivoにおける検討も行う。即ち、野生型マウスとDAP12欠損マウスの骨髄細胞を蛍光色素(PKH26とPKH67)でそれぞれ標識した後に混合し、肥満マウスへ眼窩投与する。脂肪組織へ浸潤した細胞をフローサイトメトリーで解析し、PKH26陽性細胞(野生型マウス由来)とPKH67陽性細胞(DAP12欠損マウス由来)の数を比較する。これにより、同一個体中で、野生型とDAP12欠損マクロファージの浸潤能を比較することができる。またDAP12は、Trem2を含む複数の細胞膜上分子と会合するため、本作用におけるDAP12の会合分子を同定する必要がある。 さらに、肝臓に関してはNASHモデルを作製し、脂肪肝やNASHの発症に対するDAP12の関与を検討する。NASHモデルとしては、遺伝性肥満MC4R欠損マウスに対してウェスタンダイエットを負荷するモデルと、野生型マウスに対して高脂肪高コレステロール食を負荷するモデルを使用する。いずれにおいてもCLSが形成され、これを起点に炎症慢性化や肝線維化が進み、NASH発症に至ることを確認している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度の計画では、NASHの発症に対するDAP12の関与についての検討も行う予定であったが、モデルの作製に時間を要し解析が進まなかったため、2023年度中に挽回する予定である。また、DAP12が慢性炎症に与える影響は脂肪組織と肝臓で異なることを新たな知見として得ることができたため、DAP12の臓器特異的な機能に注目して実験を追加する。
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