研究課題
バセドウ病に代表される甲状腺機能亢進症は頻度の高い疾患であるが、治療は抗甲状腺薬に代表される薬物療法を中心として数十年にわたり大きな変化がない。さらにはこの第一選択となっている抗甲状腺薬ですら、無顆粒球症などの重篤な副作用や治療抵抗性といった多くの問題を抱えている。我々は新規治療開発を目指し、TSH過剰発現による甲状腺機能亢進症モデルマウスを独自に開発し、研究基盤の構築を行ってきた。先行研究において、甲状腺機能亢進症モデルマウスの甲状腺を回収しトランスクリプトーム解析を行ったところ、甲状腺濾胞内にヨードを輸送するペンドリンの特異的発現亢進が見出された。本研究課題では、甲状腺機能亢進症の病態におけるペンドリンの意義を解明し、ペンドリン阻害に基づく同症の治療が可能か検証することを目的としている。上記の仮説をペンドリンノックアウトマウス(以下KOマウス)に対するTSH過剰発現実験を行い検証する。つまり、遺伝子ノックアウトによりペンドリン蛋白の発現量が増加し得ない生体環境においては、TSH過剰発現により惹起される甲状腺機能亢進症が減弱するという作業仮説を立てた。現在までの進捗として、KOマウスを入手、繁殖し、野生型、ヘテロKO、ホモKOのいずれにもTSH過剰発現処置を行った。しかし、我々の他のマウスに対する経験よりもTSH過剰発現の程度が弱く、バックグラウンドの違いによる可能性を疑った。その後C57BL/6Nバックグラウンドへとバッククロスを完了し、改めてTSH過剰発現処置を実施した。現在、血清、甲状腺を回収し、甲状腺機能測定、遺伝子発現評価、組織学的解析を進めている。以上のように、ヨード輸送を中心とした甲状腺生理学を発展させるだけでなく、甲状腺機能亢進症の新規治療創出をも目指し、研究を推進している。
1: 当初の計画以上に進展している
ペンドリンノックアウトマウスに対するTSH過剰発現実験を2023年度までにかけて完了する計画であったが、2022年度末において既に投与実験を終えており、回収したサンプルの解析を進めている。すなわち、当初に設定したタイムラインよりも早く完了する目途が立っている。
ペンドリンノックアウトマウスに対するTSH過剰発現実験において、甲状腺機能亢進の誘導が減弱する、すなわちペンドリンが治療標的となる可能性が示されれば、抗甲状腺薬や無機ヨードなど既存の治療薬の併用実験、ペンドリン阻害化合物の投与実験など、治療応用に向けた検証を進める予定である。
当初計画より進展があり、予備実験で野生型マウスとノックアウトマウス間でフェノタイプの差を観察でき、既に方向性を固めることができた。この成果を踏まえて令和5年度以降に予定しているマウスの解析を前倒しするために次年度使用額が生じた。使用計画としては 野生型、ヘテロノックアウト、ホモノックアウトのいずれのマウスも用い、ペンドリンの発現量に依存したTSH過剰発現処置による甲状腺機能や濾胞形態の変化を観察する。甲状腺ホルモン合成系の遺伝子群について発現量の変化を定量PCRによって評価し、ペンドリンについてはウエスタンブロット、免疫組織化学による蛋白レベルの変化も確認する。また、既存薬剤との併用における治療効果の検討も行う計画としている。臨床で最も処方される抗甲状腺薬のチアマゾールの作用機序はTPO活性阻害が主であると考えられ、近年使用例が増えているヨウ化カリウムは細胞内へのヨード輸送を阻害する。ペンドリン阻害に基づく甲状腺機能亢進症治療という戦略の臨床的な位置付けを明確にするため、TSH過剰発現下に野生型マウス・ペンドリンノックアウトマウスへチアマゾール、ヨウ化カリウムを投与する。すなわち、異なる作用点を同時に阻害することで、惹起される甲状腺機能亢進症のさらなる抑制が得られるか検証する。
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