本研究では、膵β細胞増殖におけるATF6を中心としたERストレス応答関連因子の役割を解明するとともに、生体膵β細胞量に与えうる影響を明らかにすることを目的とする。これまで、膵部分切除の他に、高濃度グルコース条件下で培養した単離膵島ではATF6の活性化、BrdU陽性細胞の増加が報告されているが、膵島単位でない膵β細胞特異的な解析はほとんど行われておらず、ATF6の膵β細胞増殖誘導における役割を解明するためには膵β細胞特異的な実験系を用いる必要があった。申請者は膵β細胞単一細胞RNAシークエンスデータを基に、膵β細胞特異的ATF6αノックアウトマウス(Rip-Cre; ATF6α floxed)を作成した。この膵β細胞特異的ATF6αノックアウトマウスは明らかな異常を認めずに出生・成長し、通常食摂餌下ではコントロールマウスに比し、体重や随時血糖、グルコース負荷による耐糖能に有意な差を認めなかった。また、膵病理における評価においても、インスリン免疫染色評価に基づく膵β細胞量、ならびに膵β細胞におけるBrdU陽性細胞率やTUNEL陽性細胞率にも2群間で有意な差を認めなかった。このため、膵β細胞特異的ATF6αノックアウトマウスは、通常食摂餌下では、膵β細胞の増殖やアポトーシスに大きな影響を認めず、膵β細胞量に影響を及ぼさないものと考えられた。今後、ATF6αの成体膵β細胞増殖に対する役割を明らかにするために各種膵β細胞増殖誘導モデルでの膵β細胞増殖率の評価、ならびに、ERストレス応答因子であるATF6αの膵β細胞量保護への寄与を明らかにするため、高脂肪食摂餌下での膵β細胞量についての評価を行う予定である。
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