研究課題/領域番号 |
22K16420
|
研究機関 | 国立研究開発法人国立成育医療研究センター |
研究代表者 |
中尾 佳奈子 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 分子内分泌研究部, (非)研究員 (50723441)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | サイログロブリン / 先天性甲状腺機能低下症 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、新生児マススクリーニングで発見されたTG異常症患者の長期臨床像を明らかにすることと、TGタンパク質の機能解析系を構築し、TG遺伝子のミスセンス変異が機能低下に至る機構を分子-細胞レベルで明らかにすることの2つである。そのために行う研究方法は、TG異常症患者の臨床情報収集、TG安定発現HEK293細胞株による一連の機能解析実験(タンパク質発現、細胞内局在、分泌能の評価)、立体構造モデリング解析の3つである。 2022年度は、新生児期に診断されて治療が開始されたTG異常症28名の臨床情報収集を完了させた。その結果、甲状腺腫大に伴う圧迫症状の解除を目的に甲状腺切除術を受けた患者が2名おり、さらに甲状腺結節を有し、穿刺吸引細胞診を行った患者も1名いたが、悪性所見を認めた患者は1名もいないことが分かった。これは、新生児マススクリーニング導入以前に診断された患者群では、若年成人期に半数以上が甲状腺がんを合併していたという報告と異大きく異なる結果であり、新生児期に診断され治療されている患者では甲状腺がんの合併リスクが低い可能性が示唆される重要な新規知見である。細胞実験では、TGのC末端側にEGFP、FLAGタグ、Hisタグを付加した融合タンパク質を組み込んだpiggy-bacバックボーン・プラスミドの構築に取り組んだ。また立体構造モデリングでは、2020年にクライオ電顕に基づくTGの立体構造が報告されており、本研究ではProtein Data Bankに登録されたこの立体構造情報を参照して変異による立体構造への影響を検証した。その結果、対象患者で同定した7種のミスセンスのうちシステイン残基の1アミノ酸置換については、当該システインが近傍システインとの間でジスルフィド結合を形成していることを確認した。これは1アミノ酸置換により立体構造障害が生じることを強く支持する結果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度は、新たに2名でTG異常症の遺伝子診断を行った。それらと過去に遺伝子診断した症例25名とを合わせて、合計27名の臨床情報の収集を完了させた。収集した情報は、甲状腺ホルモン(遊離T4、遊離T3)・TSH・TG値の年次推移、最終観察時までの成長・発達、甲状腺ホルモン補充量の推移、甲状腺手術歴(および病理診断)。エコー画像は匿名性に配慮した上で可能な限り実データを取り寄せ、特徴的所見の有無を評価した。 また野生型と同様の手法で、ミスセンスTG変異7種のEGFPタグ付きプラスミド作製を開始している。TGは2,768アミノ酸から成る巨大分子であり、変異導入に苦労しているが、工夫しながら実験を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
採用2年目にあたる2023年度は、得られた臨床情報をサブグループに分けて比較解析を行う予定である。また細胞実験においては、ミスセンスTG変異7種のEGFPタグ付きプラスミド作製を完了させ、過剰発現させたHEK293を用いて、TGタンパク質の局在診断および上清中への分泌の有無を検証していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、学会出張に使用する目的で、旅費と学会参加費(その他)を計上していたが、コロナ流行拡大に伴い、予定していた学会参加を取りやめたり、オンライン参加に切り替えたため、残額を翌年度に繰り越した。2023年度は学会の現地参加で情報交換をしっかり行いたい。
|