糖尿病治療薬のSodium-glucose co-transporter 2(SGLT2)阻害薬は尿中にグルコースを排出することで血糖値を低下させる作用を持つ。血糖値が低下すると、まずグリコーゲン分解が起き、続いて肝臓や腎臓での糖新生が亢進して血糖値が維持される。糖新生は脂肪や筋肉から供給されたグリセロールやアミノ酸を基質としており、それぞれグリセロールはGYKを、アミノ酸はPEPCKを介した代謝経路を経て糖新生を行う。これらの糖新生酵素に着目し、肝臓特異的GYK欠損マウスやPEPCK欠損マウス、腎臓特異的PEPCK欠損マウスを作製し、SGLT2阻害薬が脂肪や筋肉へ及ぼす影響を評価、解析した。 肝臓特異的GYK欠損マウスにSGLT2阻害薬投与を行うと、体重減少量に比して、筋肉重量はKOマウスで減少がより抑制される傾向を認めた。肝臓特異的PEPCK欠損マウスにSGLT2阻害薬投与を行うと、KOマウスでは体重減少効果がより大きくなる傾向を認め、臓器別にみると脂肪重量の減少が大きかった。最終年度では腎臓特異的PEPCK欠損マウスにSGLT2阻害薬投与を行った。自由摂餌下で7日間投与を行うと、脂肪重量や筋肉重量への影響は認めなかった。これらのマウスの血液や各臓器の遺伝子発現量を解析したが、糖代謝や脂質代謝に関連する主要な遺伝子発現量変化の差は、今回の解析では認められなかった。酵素活性や蛋白量の変化によって表現型が制御される可能性が示唆された。 本研究の成果として、欠損する糖新生酵素によって、SGLT2阻害薬によるエネルギー喪失が引き起こす臓器毎の影響が異なることが確認された。しかし今回の解析結果からは、この原因を明らかにはできなかった。SGLT2阻害薬投与による脂肪や筋肉の分解のメカニズムの解明が進むことで、肥満症やサルコペニア肥満の治療や予防の開発につながりうることが期待される。
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