研究課題/領域番号 |
22K16427
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森下 宗 九州大学, 生体防御医学研究所, 助教 (50860962)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | システム生物学 / シグナル伝達 / インスリン / Akt / 2型糖尿病 / 肥満マウス / 数理モデル |
研究実績の概要 |
健常および肥満マウス肝臓において,インスリン-PI3K-Akt経路の各分子がどのようなタイムコースでインスリン刺激に対して反応するか実験を行った.マウス肝門脈もしくは腸間膜静脈からシリンジポンプを用いてインスリンを注入することで,血中インスリン濃度を厳密にコントロールした.このとき,インスリンは生体内の濃度変化を模した3種類のパターンで注入した.ELISAにより血中インスリン濃度を,ウェスタンブロットによりIR,Akt,GSK3β,S6K,FoxO1といった分子のリン酸化レベルを測定した. 肥満マウス肝臓ではAktリン酸化レベルの低下やIRおよびIRS2の発現量の低下が見られた.実験データを元に常微分方程式モデルを用いたシミュレーションを行ったところ,Aktリン酸化レベルの低下はIRおよびIRS2発現量の低下のみで再現できることが明らかになった. 2型糖尿病や,肥満ではインスリンが効きにくくなるインスリン抵抗性という現象が知られており,これを説明する複数の仮説が提唱されているが,どの分子がどの程度かかわるか定量的に明らかにした研究は存在しない.肥満マウス肝臓におけるAktへのシグナルの減弱はインスリン抵抗性の要因の一つと考えられ,定量的実験とシミュレーションを用いた本研究により,その詳細が明らかになった.IRおよびIRS2という2分子の量的変化が重要であり,反応速度定数の量的変化やシグナル伝達回路の質的変化は必要としないことが明らかになったため,2分子の発現量さえ分かればAktへのシグナルの減弱がどの程度であるか,実験に用いたマウスと異なる週齢であってもシミュレーション上で明らかにすることが可能となった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インスリン刺激に対するインスリン-PI3K-Akt経路の各分子のタイムコース応答を見るために,200匹以上のマウスにオペを行い,門脈(もしくは腸間膜静脈)からインスリンを注入した.当初はステップ刺激では3種類のインスリン濃度の注入を行うつもりであったが,IRのEC50の値が予想より高かったため,さらに高いインスリン濃度の注入の実験を追加した.当初予定していたシミュレーションに用いる実験データはすべて取得した.
|
今後の研究の推進方策 |
インスリン-PI3K-Akt経路の数理モデルを構築し,実験で取得したデータを元にパラメータ推定を行っていく.脂質合成の指標としてSREBP-1cのRNAレベルを用いることを計画していたが,ACLのリン酸化レベルも指標として用いる.選択的インスリン抵抗性における糖新生や脂質合成に注目していたが,高脂肪食給餌による肥満誘導では脂質合成の減少も見られたため,この2つに限定せず,タンパク質合成等にも視野を広げて解析を進める.当初の計画通り,シミュレーション上で様々な入力を与えることで各分子の応答の違いを明らかにし,実証実験にフィードバックする.
|
次年度使用額が生じた理由 |
マウスのオペの失敗を,当初より手技が向上したことによって減らすことができ,使用額が抑えられた.また,試薬の購入に際しキャンペーンを効率的に利用したことにより,使用額が抑えられた.
|