研究実績の概要 |
CLIC2は正常組織血管内皮細胞に特異的に発現しており、タイトジャンクションの維持に重要な働きをしていることを報告した(Ueno, Ozaki et al, Tissue Barriers, 2019)。肺転移モデルの原発巣、転移巣におけるRNA発現の比較からCLIC2が転移浸潤の抑制に関わり、さらにはCLIC2が正常組織や良性腫瘍が転移や浸潤を起こさない理由となっていると考えた。実際に、髄膜腫Grade IのCLIC2発現は特に高く、膠芽腫やGrade II 髄膜腫では低いことが判明、またCLIC2発現の高さはPFSの長さと正の相関をしていた。 CLIC2はほとんど研究されておらず、特に腫瘍との関連では最も詳しい研究が我々の論文(Ueno, Ozaki et al, およびOzaki et al.論文)である。MMP阻害剤は、がんの遠隔転移や浸潤を抑制する薬物として非常に多くのものが開発されてきたが、結局、臨床応用に至ったものはまだ一つもない。MMP14も転移浸潤を抑制する上で、極めて優れた標的であることは理解されているが、その阻害剤は臨床応用には至っていない。CLIC2由来ペプチドは、少なくとも肝障害や腎障害は引き起こさないものと期待され、作用もMMP14に限局するため、画期的な新薬候補となるものと期待している。 従来、良性腫瘍がなぜ転移浸潤しないのかよくわかっていなかった、さらに言えば、正常臓器・組織の細胞がなぜ、他処に転移していかないのか、よくわかっていなかった。CLICファミリーは、後生動物(多細胞生物)に広く保存されているため、生命現象の根幹に関わるものと想定されてきたが、その本質的な役割は不明のままであった。組織や器官の分化が生じて以降は、正常細胞はその場所にとどまる必要がある。
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