研究課題
国内外でGWAS(genome-wide association study)により、非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease : NAFLD)/非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis : NASH)感受性遺伝子が多数報告されている。肝移植患者においても NAFLD 感受性遺伝子が肝移植後Graft脂肪肝の発症に影響することが予想される。ドナー・レシピエントいずれの遺伝的素因が重要であるかを判別するこをと目的とする。また、遺伝的リスクスコアを新規に作成することで、術後脂肪肝を高率に発症する患者を予測可能とすることを目的とする。もしも肝移植前に肝移植後Graft脂肪肝を予測することが可能であれば、患者への早期介入により、肝移植後Graft脂肪肝の発症を抑制し、ひいてはグラフトロスの減少に寄与すると考えている。そこでまずは、肝移植後に非常に高率にGraft脂肪肝を発症する、NASH肝硬変・アルコール性肝硬変肝移植患者において、NAFLD感受性遺伝子の変異の有無をドナー・レシピエント別に検索した。移植時の肝標本からDNAを抽出し、リアルタイムPCR法によるTaqMan Assayを使用したジェノタイピングにより、変異の有無を判定した。まだ実験結果が未確定ながら、複数のNAFLD感受性遺伝子に関して、レシピエントのリスクアレル保有は肝移植後Graft脂肪肝の発症と相関していなかった。一方で、ドナーに関してはリスクアレルを保有していた場合、保有していなかった場合よりも肝移植後Graft脂肪肝を発症していた割合が高かった。これらのことから、レシピエントでは無く、ドナーのリスクアレル保有が肝移植後Graft脂肪肝のリスクになると考えられる。肝移植患者においてはドナーの遺伝的素因が重要と思われる。
2: おおむね順調に進展している
NASH肝硬変・アルコール性肝硬変肝移植患者において、予定していた7種類のNAFLD感受性遺伝子のリスクアレルの検索はほぼ終了している。また、臨床データの集積に関しても順調であり、次年度は得られたデータの包括的解析を進め、論文化を目指せると考えている。
本結果を検証するためにも臨床データの解析の進行が求められる。複数の遺伝子のリスクアレルを有していた方が術後脂肪肝を発症しやすいかどうかの検討を行うためにも、Genetic risk scoreを作成し、その有用性の検討を進行する。また、今回はNASH・アルコール性肝硬変患者のみに絞って解析を行なったため、これらの結果が他の原疾患によって肝移植を行なった患者にも当てはまるかの検証が必要と考える。さらに今後の展望として、これらのリスクアレルを多く持つ患者において、その発現を解析すれば治療対象となる原因遺伝子やタンパクを同定できる可能性があると考えている。
本実験計画では、肝移植患者標本からのDNA抽出・SNP検索を行うのに当初より複数年度を予定している。実験に必要な試薬等に費用を要するため。また、研究成果の発表等のためにも次年度使用額が生じる。
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