癌の浸潤や転移の過程に重要である上皮間葉転換(EMT)の誘導は、癌関連線維芽細胞の機能を反映するdesmoplastic reaction (DR)と癌先進部の脱分化所見としての低分化胞巣(PDC)から病理組織標本上で形態学的に分類できる。本研究において大腸癌切除標本を用いてこれらを評価し、病理組織学的にEMTが誘導されている大腸癌は予後不良であることが明らかになった。また、CD3+細胞/CD8+細胞/CD163+細胞を用いてImmunoscore(IS)とSignature of Immune Activation(SIA)を計算し腫瘍免疫の状態を評価した。CD3+細胞とCD8+細胞から計算されるISと予後に有意な関連を認めなかったが、CD8+細胞とCD163+細胞から計算されるSIAと予後に有意な関連を認め、High SIA群はlow SIA群と比べて全生存割合、癌特異的生存割合、無再発生存割合は有意に良好であるといった結果を得られた。さらに、low SIA群の中でも補助化学療法未施行群において無再発生存割合は高く予後不良であった。 コラーゲンとエラスチンから腫瘍内の線維化成分を評価し、コラーゲンとエラスチンともに正常組織と比べて腫瘍組織内で有意に多く、その割合の高い症例において無再発生存割合は有意に低いといった結果が得られた。このような症例では、CD3+細胞およびCD8+細胞の有意な低下と関連していた。以上の結果から、腫瘍内の線維化成分が多いと免疫細胞浸潤は少なく、予後不良であることが明らかになった。 本研究成果からEMT誘導の引き起こされている腫瘍内の線維化が強い症例や腫瘍先進部のDRが未熟な症例は腫瘍免疫抑制と関連していることが明らかとなり、各種指標から予後不良症例を抽出し集学的治療を行うことで進行大腸癌の予後向上や新たな治療開発の可能性が示唆された。
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