研究課題
本研究の目的は、「コンバージョン手術の患者選択最適化を目指し、腹腔洗浄細胞診(CY)や腹膜播種(P)陽性胃癌の化学療法奏効の背景にある遺伝子異常としてARID1A変異やそのタンパク質発現の臨床的意義を解明すること」である。本年度は、1. 胃癌コンバージョン手術症例の予後因子解析、2. CY1P0胃癌症例における最適な初期治療の検討、3. 胃癌におけるARID1A遺伝子変異とタンパク質発現の検討を行った。1.コンバージョン手術を施行されたStage IV胃癌79例を対象とした。CY陽性、単発で腫瘍径5cm未満の切除可能肝転移、または16a2や16b1リンパ節転移にてStage IVと診断された症例をInitially resectable (IR)、それ以外の腹膜播種等でStage IVと診断された症例をUnresectable (UR)と定義した。IR症例のコンバージョン手術後の予後は有意に良好であり、IRと癌遺残の無いR0手術は独立した予後良好因子であった。2.CY1P0胃癌201例を対象とした。初期治療が化学療法であったInitial-C群と初期治療が手術治療であったInitial-S群の臨床病理学的因子や予後を検討した。4型胃癌ではInitial-C群とInitial-S群の予後に差は認められなかった。しかし、非4型胃癌ではInitial-C群の予後は有意に良好であり、初期化学療法が有効である可能性が示唆された。3.癌遺伝子パネルにて遺伝子解析を実施した胃癌症例からARID1A欠失型変異陽性の5例と陰性2例を選択した。タンパク質発現は免疫組織化学にて評価した。腫瘍細胞におけるARID1Aタンパク質発現は核における染色を発現陽性と判定した。ARID1A変異陽性の5例では全例でタンパク質発現を認めなかったが、変異陰性の2例ではタンパク質発現を認めた。
2: おおむね順調に進展している
Stage IV胃癌におけるコンバージョン手術において腹腔洗浄細胞診陽性などの比較的少数の遠隔転移であれば化学療法奏効後の根治切除で長期予後が期待できることを臨床情報の解析で明らかにすることができた。さらに、化学療法奏効に関与するクロマチンリモデリング因子の一つであるARID1A遺伝子の欠失型変異をタンパク質発現レベルで判定可能な特異抗体の検証も実施できており、概ね順調に進展している。
今後は遺伝子変異解析を実施した胃癌症例131例におけるARID1Aタンパク質発現を免疫染色にて評価し、mutational signatureの評価も加味して、治療効果や予後との関連を検討する。研究結果は学術論文として投稿予定である。
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BMC Surgery
巻: 22 ページ: 428
10.1186/s12893-022-01874-8