研究課題/領域番号 |
22K16504
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大和田 洋平 筑波大学, 医学医療系, 講師 (00819584)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 膵癌 / 3Dオルガノイド / 腫瘍内不均一性 / バイオバンク / 糖鎖 / レクチンマイクロアレイ |
研究実績の概要 |
膵癌は固形癌の中で予後不良な難治性悪性腫瘍であり、腫瘍の組織学的及び分子生物学的な不均一性(heterogeneity)が治療抵抗性の一因である上、膵癌研究を複雑化している。これらheterogeneityを反映した実験モデルは未だ確立した手法が無い。 3Dオルガノイド培養はSatoらが腸管上皮幹細胞培養技術(腸管オルガノイド培養)を開発して以降(Sato T et al, Nature. 2009)、従来の2D平面培養系、異種移植モデルにかわる新たな培養法として期待されている。一方、膵癌3Dオルガノイドでは培地などの培養条件に依存したselectionにより、患者本来のheterogeneityが失われている可能性があり(Shroyer et al, Cell Stem Cell 2016)、培養方法の改良が必要と考えた。 オルガノイドは培地に含まれるniche factor依存性に増殖、形態学的変化を起こす事が知られており、培地の改良を検討した。まず当研究室における膵切除検体を用いて、ライブラリーを作成、遺伝子変異、発現、糖鎖発現を網羅的に解析し各細胞集団のプロファイリングを行う。同時に初代培養から様々な因子を培地に添加し、増殖性、形態学的変化を観察する。因子の添加群、未添加群における遺伝子発現、糖鎖発現を比較検討し、因子が培養に与える影響を考察する。 既に我々はこれまでに膵癌オルガノイドのバンク化に成功しており、計30例以上のヒト膵癌3Dオルガノイドの作成、冷凍保存が可能な状態である。さらに、同一患者から複数の種類のオルガノイド作成を行い、膵癌腫瘍のheterogeneityを反映したオルガノイド作成を目的としたニッチ因子の探索のため、複数のニッチで培養・検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年5月から2023年3月までに計25症例の膵切除検体から計16種類のオルガノイド樹立に成功した。樹立当初からそれぞれのオルガノイドにおいてニッチ(X,Y,Z…)を添加した群と添加していない群の2群を作成し、その後の2群における変化を評価した。評価項目は培養速度、形態、遺伝子発現、糖鎖発現、薬剤耐性である。方法として、形態評価はオルガノイドを固定したFFPE切片を作成して免疫染色を行い、さらにマウスモデルを作成し組織像を評価した。 遺伝子発現では筑波プレシジョンメディシンセンター協力のもと、次世代RNAシーケンスを行う。その結果得られたデータを元に、再現性を確認するため、qPCRでの発現実験を行う。 糖鎖発現としては、産総研における96種類のレクチンを用いたレクチンマイクロアレイを用いて、細胞最外層を覆う蛋白の発現変化を捉え、さらにこの結果をレクチンブロッティング、レクチン染色を用いて評価する。 また、得られた2群の分子メカニズムをvitroで評価するため、薬剤投与実験も行っている。現在膵癌に対する治療の代表とされるゲムシタビン、5-FU、イリノテカン、パクリタキセル、オキサリプラチンをそれぞれ適切な培養濃度に振り分け、有効濃度を同定する。 以上の方法で、得られたデータを元にニッチXがオルガノイドに与える影響、膵癌における役割を同定することとした。 ニッチXにおける培養の1例で、同一患者から異なる2群で樹立に成功した。現在上記方法で2群の評価を行っているところであるが、この2群は形態から全く異なっており、RNAシーケンスの結果からも全く異なった発現経路を示すことが明らかとなった。今後は症例数を蓄積し、再現性を確認するとともに、ニッチXの有効性を証明していく。
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今後の研究の推進方策 |
すでに我々はニッチXを添加する群、添加しない群で同一患者から異なるオルガノイドの作成に成功している。まずはこれら2群の遺伝子、糖鎖、薬剤耐性などの詳細な分子メカニズムの解明を行う。これらの再現性を確認するためにも、さらなる症例数を蓄積し、解析を行っていく。また並行してニッチY,Z…など異なるニッチにおいても樹立を行い、解析を行う方針である。 ・次年度使用が生じた理由と使用計画 同一患者から複数のオルガノイドを作成することは、膵癌オルガノイドの樹立効率を考慮しても困難である。現に、既報では手術検体から膵癌オルガノイドの樹立効率は62%であり(E. Driehuis et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2019)、これを複数の条件で、同時に成功させるにはかなりの症例数が必要である。 現在までに28症例で樹立を行っているが、既存の方法の樹立効率は既報と同定度であるが、異なるニッチを添加した群で必ず成功するわけではない。そのため、更なる症例数で検討する必要がある。 また、現在我々は作成したオルガノイドをまとめてbulkとしてRNAや蛋白を抽出しているが、昨今発展が著しい、シングルセル解析技術の方法を取り入れる方針である。 産総研館野研究室独自の技術である、シングルセルグリカンRNAシーケンス(Tateno et al, iScience, 2021)を用いて、糖鎖および遺伝子発現を一細胞レベルで解析することが可能となっている。異なるニッチを用いることで、異なる細胞としてオルガノイドの樹立が可能と考えられるが、さらにその中でも不均一性は存在すると考える。そのため、この技術を用いてさらに詳細な糖鎖、遺伝子解析を行うことで、ニッチが与える影響を単一細胞レベルで把握することが可能と考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により遠方への出張が制限されていたため旅費の支出が予想より低額であった。また、物品費も次年度購入予定があるため次年度へ繰り越すこととした。
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