研究実績の概要 |
本研究の目的は、大腸癌発癌促進作用があるPorphyromonas gingivalis, Porphyromomas asaccharolytica, Fusobacterium nucleatumが食道腺癌の発癌を促進するかどうかを検討することである。われわれはその発癌メカニズムとして、3菌種が食道腺癌の発生母地であるBarrett食道上皮細胞に細胞老化を誘導し、さらには染色体不安定を惹起することに注目している。 まず、この3菌種共通の代謝産物である酪酸が、Barrett食道上皮細胞株 (CP-A細胞)に細胞老化を誘導するかを検討した。500μM, 1mM, 3mM, 5mMの各濃度の酪酸をCP-A細胞に9日間投与し、細胞数カウントを行った。その結果、1mM以上で酪酸がCP-A細胞の細胞増殖を安定的に抑制することが分かった。また、RT-qPCRにて細胞老化マーカーの遺伝子発現の変化を調べた結果、酪酸投与によりp21、IL-1β、IL-6の発現上昇およびLamin B1の発現低下が認められた。一方でp16の発現上昇は認められなかった。また、DNAダメージ応答について蛍光免疫染色で評価した結果、酪酸投与によりCP-A細胞にDNAダメージ応答が誘導されることがわかった。以上より酪酸はCP-A細胞に細胞老化を誘導することがわかった。 また、令和5年度以降に行う予定の動物実験に先立ち、野生型マウスに食道空腸吻合を施した逆流性食道炎モデルマウスを作成した。 食道腺組織中に菌が存在するかどうかを検討するために、食道腺癌手術検体のFFPE標本を用いたin situ hybridizationは、倫理審査の手続きが遅れたことにより、まだ解析を開始できていない。令和5年度に解析を開始する予定である。
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