研究実績の概要 |
本研究の目的は、大腸癌発癌促進作用があるPorphyromonas gingivalis, Porphyromomas asaccharolytica, Fusobacterium nucleatumの食道腺癌の発癌促進作用を検討することである。 まず食道腺癌の手術検体31例を用いて、食道腺癌組織中の細菌叢を解析した。食道腺癌組織と非腫瘍部組織とで細菌叢の大きな違いは認められなかった。一方、F. nucleatumは5例、P. gingivalisは1例の食道腺癌組織で認められた。P. asaccharolyticaはいずれの検体でも認められなかった。F. nucleatumは、in situ hybridization、qPCRでも腫瘍組織中の存在を確認した。 そこで、F. nucleatum, P. gingivalisが食道腺癌の病態に関与しているかを検討した。各菌の培養上清をBarrett食道上皮細胞株 (CP-A細胞)に投与した結果、F. nucleatum, P. gingivalisの培養上清はともにCP-A細胞の増殖を安定的に抑制した。RT-qPCRにて細胞老化マーカーであるp21、IL-1β、IL-6の発現上昇およびLamin B1の発現低下が認められた。以上より、F. nucleatum, P. gingivalisの培養上清は、Barrett食道上皮細胞に細胞老化を誘導することがわかった。次に、細胞の倍数性変化を蛍光染色で調べたが、細胞老化が誘導された細胞の倍数性は通常の細胞と違いがなかった。また、昨年度より食道腺癌発癌モデルマウスの作成を試みていたが、p16, p21DKOマウスに食道空腸吻合を施したマウスにおいて食道腺癌の発生が確認できなかったため、菌の食道腺癌発癌メカニズムへの関与について解析を続けることが困難であると判断した。
|