研究課題/領域番号 |
22K16512
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
垣内 慶彦 岡山大学, 大学病院, 助教 (70868356)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エクソソーム / 細胞外小胞 / 腫瘍融解アデノウイルス / 樹上細胞 |
研究実績の概要 |
当教室では臨床応用を目指して腫瘍融解アデノウイルス(OBP-301)を開発し、さらにp53を組み込んだより強力な抗腫瘍効果を有するOBP-702を開発した。これらのアデノウイルスを用いたがんウイルス療法は、局所投与による強力な抗腫瘍効果を有する画期的な治療法であり、治療後の全身性抗腫瘍免疫の賦活が期待される。 エクソソームはすべての組織・臓器から分泌される約30-150nm程度の小胞体で、分泌細胞由来のmRNA、miRNA、DNA、タンパク質などが含まれている。また、細胞間伝達において大きな役割を担っているとされ、さらに特筆すべき特徴として腫瘍指向性を持つと言われている。 OBP-301での治療後にOBP-301がエクソソームを介して未治療腫瘍において抗腫瘍効果を引き起こすことはすでに確認しており、この際に引き起こされた抗腫瘍効果は、アポトーシスなどに代表されるOBP-301による直接的な効果であった。一方、申請者らは過去に腫瘍融解アデノウイルスが免疫細胞死(Immunogenic Cell Death:ICD)を引き起こすことも確認している。これらの知見から、腫瘍融解アデノウイルスでの治療後にウイルスがエクソソームを介して引き起こす効果には、直接的な効果以外に、免疫賦活に伴う間接的な効果も存在する可能性を考えた。 本研究では、OBP-702で治療した腫瘍細胞から分泌されるエクソソームにOBP-702が搭載されている(Exo-702)ことを確認した。またExo-702を未成熟樹状細胞に投与することでその活性化に促進することを確認した。さらに免疫のあるマウス骨髄細胞から得た未成熟樹状細胞にExo702を投与することで樹状細胞が活性化されることを同様に確認するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
I.Exo702の質的評価:まず、in vitroにおいて、論文業績1と同様に超遠心法にてOBP-702で治療した細胞株から回収したエクソソームを用いて、Exo702内にOBP-702が含まれていることを電子顕微鏡、動的光散乱法(Dynamic Light Scattering:DLS)、PCR、ウエスタンブロットなどで確認を行った。その後、分泌由来元の細胞にExo702を投与し細胞障害活性があることをXTTにて確認した。 II.細胞株を用いたExo702によるDCの活性化に関する検討:in vitroにおいてヒト急性単球性白血病由来細胞株をImmature Dendritic Cell:IMDCへと分化させ、IMDCにExo702を投与し、DCの成熟化マーカーであるCD80、CD83、CD86、IFN-γの発現量をFlow cytometryで測定。その後PBS、通常の細胞由来エクソソーム(Exo)、Exo301を投与した際と比較した。また併せて、Tumor-Infiltrating Lymphocytes:TILsの走化性促進において重要な役割を果たすCXCL10を測定することで、Exo702のTILsへの関与についての検討を行った。 III.免疫のあるマウス骨髄を用いたExo702によるDCの活性化に関する検討:ex vivoとして免疫のあるマウスの骨髄細胞を培養しIMDCへと分化させた。そこへOBP-702で治療したマウス膵臓がん細胞株から回収したExo702を投与し、DCの成熟化マーカーの測定をFlow cytometryで行い、PBS、Exo、Exo301投与群と比較検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
IV.マウス両側背部皮下腫瘍モデルにおけるエクソソームを介した抗腫瘍免疫反応に関する検討:in vivoとして、免疫のあるマウスにwild typeのアデノウイルスでワクチネーションを行い中和抗体が産生された状態にし、両側背部皮下腫瘍モデルを作成し、PBS、OBP-301、OBP-702(いずれも局所投与)に分けて片側腫瘍のみを治療し、治療側腫瘍のドレナージリンパ節および未治療腫瘍において抗腫瘍免疫反応が誘導されているかを治療後1週間程度で観察する。ドレナージリンパ節でDCの活性化を、対側の未治療腫瘍においてCD8 T細胞が確認されれば、これはExo702を介した効果と考えられる。また評価方法はFlow cytometryや免疫組織化学染色にて解析・検討を行う。 V.免疫のあるマウス脾臓を用いたExo702によるT 細胞の活性化に関する検討:免疫のあるマウスにwild typeのアデノウイルスでワクチネーションを行い中和抗体が産生された状態にする。このマウスに背側皮下腫瘍を作成し、腫瘍をPBS、OBP-301、OBP-702(いずれも局所投与)で治療した後に脾臓からCD8陽性リンパ球を分離し、それを腫瘍細胞へと投与することでT細胞の活性化を評価(Cytotoxix T lymphocyte:CTL assay)する。 VI.マウス両側背部皮下腫瘍モデルにおけるエクソソームを介した抗腫瘍免疫反応による抗腫瘍効果に関する検討:さらにin vivoにおいて、上記IVと同様の実験系にて腫瘍の大きさを測定する。1か月を目途として測定した後、治療側腫瘍および未治療側腫瘍内に含まれるCD8 T細胞を免疫組織化学染色にて測定・解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウスを用いた実験が、当初予定していたものよりも順調に結果が出たため次年度繰越が乗じた。2年目の計画ではマウスを用いた実験を主体として考えており、そちらで使用予定。
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