研究課題
(1)手術患者の術直後に末梢血を採取し、Ficoll遠心法にて顆粒球と単核球を分離し、CD45(+)CD66b(+)細胞を低比重好中球(LDN)とし、抗原発現をFlow cytometerで測定したところ、高比重好中球(HDN)と比べ、LDNは成熟マーカーのCD11b、CD16、CD66bの発現が低く、未成熟マーカーのCXCR2、CD62Lの発現は高く、より未成熟型のフェノタイプであった。また、PD-L1はHDNではほとんど発現を認めなかったが、LDNでは有意な発現を認めた。また、磁気カラム法で分離したLDNとHDNを8~24時間培養した後のアポトーシスの割合はLDNで有意に少なく、術後末梢血液中のLDNはNDNと比較しアポトーシスを起こしにくく、長期に生存する細胞集団であると考えられた。(2)当科にて根治切除を施行した178例の大腸癌患者において、手術前後で末梢血を採取、単核球中のCD66b(+)LDNの割合をflowcytometryで測定した。術前LDNの割合は中央値(M)=0.97%(0.019-32.0%)で、ステージによる差はなかったが、好中球リンパ球比(NLR)と正の相関を示した。一方、術直後に採取した血液中のLDNは多くの症例で増加し (M=3.38%, 0.035-59.5%)、手術時間、出血量と弱い正相関を示した(r=0.23, 0.16)。観察期間中(中央値387日)で、Stage I患者には再発を認めなかったが、Stage II以上129例中12例(9.3%)に再発を認め、それらの症例の術後LDNの割合は非再発症例と比べて有意に高値であった(M=10.1% vs 3.1%, p=0.0022)。cut off lineを4.9%と設定すると、術後LDN高値群は低値群に比べて有意に無再発生存率(DFS)が悪かった(p=0.0014)。
2: おおむね順調に進展している
大腸癌患者の手術前後の末梢血中の低比重好中球(LDN)の表現型を特定し、アポトーシスを起こしにくいという新規知見を得ることができた。また、100例を超える臨床検体を用いて、術後LDNの割合が再発を予測する新たなバイオマーカーとなりうることを示唆する結果が得られた。
(1) 臨床的検討については前年度までの検体解析と予後調査を継続し、術後血液中の低比重好中球(LDN)の再発に及ぼす影響を明らかにする。(2) 手術前後の末梢血中から超遠心法を用いてエクソソームを分離し、miRNAを抽出し、術前と比べて術後検体のLDN値およびNET濃度が著明に増加したサンプルを選別し、PCRアレーを用いた網羅的解析法にてその成分分析を行い、特に劇的な変化が認められたmiRNAを見出す。この結果とWeb上で公開されているmiRNA情報を統合し、外科的ストレスが末梢血中へのLDN誘導、NET産生現象を修飾する可能性のあるmiRNAを数種類選択し、そのmiRNAに焦点を絞ってRT-PCR法にてその発現量の術前後での変化を全サンプルで定量する。これらの結果と術後経過を照合し、がんの再発、予後との相関性を検討する。その結果から、最も有力なmiRNAを選抜し、そのmiRNA-mimicまたはanti-miRNAを合成し、Balb/Cマウスに投与し、数時間後に同系大腸癌細胞colon26を尾静脈注入し、3週間後に犠牲死させ肺転移の個数、重量を測定し、これらのmiRNAが実際に癌転移を促進するか?を明らかにする。また、癌細胞投与の翌日に、犠牲死させ、骨髄中の造血細胞の組成、末梢血中のLDNの頻度をFACSにて検討し、標的miRNAが骨髄における顆粒球の分化や末梢へのegress現象に与える影響を明らかにする。また、肺組織を採取、CD66b、シトルリン化ヒストンに対する抗体を用いた免疫染色によって、肺組織中好中球の浸潤とNETの存在を検討する。最後に、Balb/Cマウスに外科的侵襲を加えたのちに標的miRNAのanti-miRNAやmimicを投与することで転移が抑制されるかを検討し、外科的ストレスが好中球の動態に及ぼす分子機序を解明する。
Flowcytometryを用いたヒト末梢血中のLDNの測定に関しては、別の課題で獲得した研究費で購入したモノクロナル抗体を使用することが出来たため、予定より少額の物品費にて当初の目的を十分に達成することができた。その分は、次年度のmRNA解析、動物実験用の物品費に充当する予定である。
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