本研究では2本以上のfree graftを使用する際の中枢吻合部の形態ごとの血流分布について数値流体力学を用いて解析することでグラフトに実際に流れる血流量や、血管壁や吻合部にかかるせん断応力Wall shear stress (WSS)、せん断応力のベクトルゆらぎを示すOscillatory shear index(OSI)などを測定し、最も長期開存が望める最適な中枢吻合形態を明らかにすることを目的とした。 まず第一に、3Dモデリングソフトを使用して理想的な冠動脈吻合モデルを作成した。特に、PiggyBack吻合における第2グラフトの吻合位置、角度、血管径などを変化させて様々なモデルで血流解析を行い、血行力学変化の違いについて検討した。まずは得られた結果の解釈をしやすくするため中枢吻合の形態のみにバリエーションを持たせて各形態を比較した。 血流解析の結果として、1本目のグラフトの中枢吻合から2本目のグラフトの吻合部までの距離が長くなるほど2本目のグラフトに流れる血流量が低下すること明らかになった。さらに、1本目と2本目のグラフトを逆向きに吻合した方が2本目のグラフトの血流は増加する傾向にあった。以上から、PiggyBack吻合をする場合2本目のグラフトは1本目の中枢吻合に近い位置で1本目と逆向きに吻合すると流量が多く長期的な開存が見込める可能性が示唆された。 また、実際に患者の術後造影CTから3Dモデルを作成して血流解析を行った。こちらの結果としては、グラフトの血管径や吻合口の長さが大きくなるほど、吻合のheelでのWSSや、toeでのOSIが小さくなる傾向にあり、流出血管に対して吻合口が大きくなると吻合内での血流はスムーズになり、グラフトでの高いWSSは見られなくなった。以上より、吻合口を大きくとることが良好なグラフト血流を得るためには必要と結論づけられた。
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